第5章 いいぞガンバレ飯田くん!
そして昼。
「癒守っ」
「ん?」
彼女に話しかけたのは上鳴電気、その人だった。
彼は今から薔薇でも渡してプロポーズするのかと思うくらい、ガチガチに緊張で震えていた。
「俺と、お昼一緒にどーですか‼︎」
癒守は少し驚いたように一瞬、目を丸くした。
暫くして、唇に人差し指をあてて何か考えた後、上鳴を真っ直ぐ見つめてこう言った。
「是非。」
教室は、水を打ったように静かになった。
ーー食堂にて。
「なんでお前らもいるんだよ…‼︎」
上鳴は一転、数分前の勇気を振り絞った自分が惨めに感じていた。過去の自分に教えてあげたい、そんな努力してもこのクラスメートのおかげで水の泡だぞと。
「ウチらもエマと話してみたかったし」
「俺も一緒に食うやついないからよ、一緒に食おうぜ上鳴!」
耳郎と切島だった。
「ひとが多い方が楽しい、ね?」
とエマと目があった。
そして上鳴は何も言えなくなった。
「へえ、じゃあエマは自分に入れなかったんだ」
と、耳郎は日替わりの竜田揚げ定食を食べながら言った。
話題は、先程行われた学級委員長の投票である。
「うん、そういうの苦手でね」
「じゃあ誰に入れたんだ?」
「…飯田くんだよ。」
「あの1票は癒守だったんだな」
納得したようにウンウンと頷く切島が食べているのは、食べ盛りの男子高校生すら降参すると噂の、超絶ボリューム・漢のつゆだくカツ丼である。
「俺に入れてくれたら…!」
「あの中で上鳴には入れないしょ。でもなんで?」
「うーん…」
何故か、上鳴が箸で突いてる塩ラーメンのメンマを見ながらエマは返答に悩んだ。
「正しい人だから、かな」
「なんだそれ?」
「あのままじゃ決まらなかったもの。自分のやりたいという欲とは別に、誰かがある程度の公平さを担保した決め方を提案して、実行しなきゃいけなかった」
エマの脳裏には、投票を提案しながらも手をピンっと伸ばしていた飯田の姿がある。
「だからーー」
ウウーーー‼︎‼︎
エマの言葉を遮るように、けたたましい音が響いた。