第4章 個性把握テスト、戦闘訓練
緑谷の不安や焦燥の一方、容赦なく体力把握テストの種目は続けられた。
立ち幅跳び、反復横跳び、ボール投げーー…。
ボール投げでは、入試で出会った麗日さんが”∞”の記録を叩き出していた。
「お茶子ちゃんは、物理法則に干渉するタイプの個性?」
「秘密!」
「真似されちゃった」
エマちゃんと麗日さんが微笑ましい会話をしているが、それを和やかな気持ちで見ることは最早、出来なかった。
「ダメだこれ!すぐ出来るような簡単な話じゃない!」
皆…一つは大記録を出してるのに…‼︎
残りは持久走、上体起こし、長座体前屈…もう後がない…‼︎
このままだと…僕が最下位ーー…。
「緑谷くんは、このままだとマズいぞ…?」
「ったりめーだ、無個性のザコだぞ!」
「無個性⁉︎彼が入試時に何を成したのか知らんのか⁉︎」
「は?」
エマはその会話に入らず、じっと緑谷を見つめながら聞いていた。
ーーー
「そろそろか…」
一大決心。それだったと思う。
追い詰められ、ついにあの”個性”に頼った。
「出久、超カッコイイよ」
「君は、ヒーローになれる」
「ーーいずくんは、きっと成功する」
自分の背中を押してくれた人たちの言葉に、応えたかった。
入試の時に感じた、腕に力が収束していく感覚ーー。
「絶対なるんだ‼︎」
そのまま腕を振り抜いた。
…が、ポトッと期待より力のない音でボールが落ちた。
「46m」
「な…今確かに使おうって…」
「”個性”を消した」
低い声で相澤先生がそう言った。
彼の髪が重力に逆らって、ゆらゆら蠢いている。
「つくづくあの入試は…合理性に欠くよ。おまえのような奴も入学出来てしまう」
「消した…‼︎あのゴーグル…そうか…!」
ヒーローオタク、緑谷だから知っていた。
「視ただけで人の個性を抹消する個性‼︎ーー抹消ヒーロー・イレイザーヘッド‼︎」
彼は「仕事に差し支える」とメディアへの露出を嫌っている、アングラ系ヒーロー。
「地雷、2度目ってところかな」