第4章 個性把握テスト、戦闘訓練
ーー第一種目:50m走
「7秒02!」
緑谷出久は、非常に焦っていた。
入試で出会った麗日さん、飯田くんは勿論、まだ話したことのないクラスメイトらも”個性”を活かして普通じゃない記録を出してくる。
対して、一度使えば身体が壊れてしまう力…調整はまだ出来ない!
「ーーずくん、いずくん。」
「ヘッ、エマちゃん⁈ーーっその、顔近い…!」
心配そうに覗き込んでくるエマちゃん。
唇が触れそうなくらい近い距離…いい匂い…。
その距離のまま、白い手がすっと頰に添えられて、もう火が出そうなくらい顔が赤いのが自分でも分かる。
「顔色、悪かったから。大丈夫?」
「だ、大丈夫‼︎」
「そっか。相澤先生、怖い人だね」
「そ、そうだね」
「でも君なら大丈夫だよ。ーーいずくんは、きっと成功する」
その覚えがある台詞に、「エマちゃんそれ…」と言いかけたが、当の彼女は話したいことを話して満足したようだ。
スタスタ歩いて行ってしまい、仲良くなったらしい麗日さんと談笑していた。
そういえば、エマちゃんが走るところ、見れなかったな。
第二種目:握力ーー…。
「卵が…爆発しないイメージ…」
オールマイトとの会話を思い出す。100%で爆発したように壊れる自身の体。
「電子レンジに入れられた卵のような…」と、自身で形容した力。
ぐっ、と力を入れようとしたと同時に、入試で初めて個性を使い、ボロボロになったことを思い出した。
ピピッ、と鳴った計測器の数値はーー…56kg。
ーー
「すげぇ‼︎」
声の方を見ると、口元がマスクで隠れた、複数の手がある長身の生徒が囲まれていた。
「540キロって‼︎あんたゴリラ⁉︎タコか‼︎」
「タコって、エロいよね……」
その直後、バキッと音がして、全員がその方向を見た。
エマちゃんの計測器の持ち手の部分がバキバキに折れていた。
「相澤先生、壊れました。」
「…見りゃ分かる。」
「どうすれば?」
「そこ置いとけ」
「はい」と返事したエマちゃんが、壊れた計測器を置きに行った。
「エマちゃん、凄‼︎なんの個性なん⁈」
「ひみつ」
麗日さんの快活な声が、今はなんだかすごく居心地が悪かった。