第3章 入学
「いずくん」
「いずくんは、きっと成功する。」
ーーー
当時の僕たちは4,5歳で、「いずくくん」とは舌足らずで言えなくて、”く”がくっ付いた。
もうひとりの幼馴染、かっちゃんーー爆豪勝己は、やれば何でも出来てしまうタイプで、ガキ大将の乱暴者。
良し悪しは兎も角、自信に満ちたかっちゃんは憧れでもあったが、個性が発現してからは、それが悪い方向へ加速した。
僕たちの出会いは、その街で一番広い公園。
ヒーローごっこをするかっちゃん達に、無個性の僕は入れなくて、たった二つのブランコに並んで、漸く空いたそれに乗ろうとした。
「邪魔だ、デク!」
突き飛ばされて肘を擦りむいた。痛みで目に薄い水膜が張られたのが分かる。
「酷いよ、かっちゃん‼︎」
「アァ?んだよ!」
掌をこちらに向けて、バチバチと爆破して見せられて、今日も僕は何も言えずに俯いてしまう。
悲しさとか、悔しさとか、色んなものが込み上げてきて、それらが全部涙になった。
「ア?なんだお前」
かっちゃんの声に顔を上げると、三つ編みをした白髪の少女が目に入った。髪と同じ色の睫毛が長く、その奥の蒼の目がまっすぐかっちゃんを射抜いていた。
たしか、同じ幼稚園の癒守エマちゃんだ。
その子が、漕ぎ始めようとしていたかっちゃんのブランコを止めていた。
「順番、その子が先。」
「は?急に出てきて何だよお前!」
「君、大丈夫?」
「無視してんじゃねえ!」
ブランコに手を掛けたまま、こちらを見て首を傾げる。
この時から僕は女の子に不慣れで、顔が熱くなった。
「爆豪勝己くんだよね。」
「んだよ!」
かっちゃんの怒鳴りも意に介さずに、自分のペースで話を進める。
初めてかっちゃんと対等に話せる人に出会った僕は、あわあわしながら二人を見ていた。
「ヒーローになるなら、”そういうこと”は君の足を引っ張るよ」
「〜〜っ‼︎」
何も言えなくなったかっちゃんの、ブランコを掴んでいた手が緩んだ。その手をエマちゃんは掴んで立たせると、僕の方にそのまま引っ張ってきた。
「はい」
エマちゃんは、僕とかっちゃんの手を掴んで引き寄せた。
何を、とは言わなくても分かった。
「わ、りぃ…」
「う、うん…」
不思議な、仲直りの握手だった。