第8章 天主砲撃
「忘れろ。全て綺麗に洗い流してやる」
私の背中を洗い流していた信長様は、そのまま背中の傷口に優しく口づけをした。
「っ、そんな所…醜いから見ないで下さい」
まだ明るい湯殿の中で傷跡は醜さを増して見えるに違いない。
「貴様の体に醜い所などない。この傷跡は俺を庇ってついたもの。その他の傷跡も全て俺のもの。綺麗だ」
「……っ」
それは、心の奥底で欲しがっていた言葉。
帰蝶すら醜いと言ったこの傷跡を、信長様は綺麗だと言ってくれる。そんな私の欲しい言葉と態度をかけられて、我慢していたものが解き放たれた。
「ふっ、…うっ…ぅ…」
「泣くな。怖い思いをさせて悪かった」
私が怖い思いをして泣いたのだと思った信長様は、私を真綿で包むように優しく触れて行く。
その後も身体中にある傷跡に信長様はキスを落とし優しく触れて行くから、涙がとめどなく溢れて止まらなかった。
「全てを忘れさせてやる。そのまま俺を感じていろ」
その言葉通りに、信長様は私の中に信長様を刻み続けた。
何度も絶頂に押し上げられ、快楽の中へと落とされる。
「紗彩」
そして掠れた声がその度に私の名前を呼び意識を呼び覚ます。
「っ、信長様…ぁっ、ぁぁっ!」
逞しい腕が私を包み、厚い胸板からは温もりを与えられたけれど、信長様はその日は決して私に口づけようとはしなかった。
「紗彩」
それでも自分の名前をとても愛おしいと感じたのはこの夜が初めてで……
私は、この腕の中なら溶けてなくなっても良いって何度も思った。
・・・・・・・・・・
次の日、信長様率いる織田軍は安土へ帰ることになった。
帰蝶達は事前に用意していた船で逃げたのだと、兵士たちが口々に話しているのを聞いてほっと胸を撫で下ろした。
出発を待つばかりの群れの中、私は信長様の馬の横でどこかへ行ってしまった信長様が戻って来るのを待っていた。
「昨夜は少しは寝させてもらえたのか?」
「え?」
急に聞こえた声に振り返れば光秀さんが立っていた。