第8章 天主砲撃
私を馬から降ろした信長様は、私を抱き抱えたまま湯殿へと連れて来た。
「綺麗に洗ってやる」
抱き上げたままの私から器用に羽織だけを取り去り、そのまま湯船の中へ。
お湯の中で自然と開いて行く襦袢を押さえて胸元を隠そうとするも、大きな手が優しくそれを掴んで阻止し、将軍に傷つけられた左の胸が信長様に晒された。
「……っ!」
「誰にやられた?」
目を細め苦しそうな顔で信長様は私に問いかける。
言いたくはない。言いたくはないけど、信長様が思っている事では無いのだと言う事はちゃんと伝えたい。
「将軍…足利義昭だと言っていました。嫌だと抵抗したら爪を立てられて…」
「……あの男に手籠にされたのか?」
傷を負っている私よりも辛そうな表情に、私の胸もつきんと傷んだ。
「いえ…、そうなる直前で信長様達が来たって言って逃げて行きましたから……」
「そうか……間一髪間に合ったわけか…」
ふぅーっと安堵のため息を漏らした信長様は、私を膝の上へと乗せて襦袢を全て脱がし取った。
「そのままじっとしていろ」
そう言うと、私の首から順にお湯を掛けながら清めるように撫で始めた。
「っ……」
久しぶりに感じる大きな手と長い指の感触に体は素直に反応する。
「また…痩せたな」
肩や鎖骨を撫でて、ポツリと信長様は呟く。
「ごめんなさい。せっかく美味しいものを食べさせてもらっていたのに…」
「貴様が謝ることではない。安土に戻ればまたたらふく食わせて肥えさせてやる」
「はい」
嫌だと思っていたはずの手は、いつの間にか心地の良いものへと変わっている。
将軍との事がなければ気がつかなかったかもしれないけど、私はこの手に触れられる事がきっと好きなんだ。
でも将軍…、あの目と態度は、そうそう忘れられる気がしない。
「………ぅっ」
「如何した?」
「将軍にされた事を思い出してしまって…」
今も思い出すだけで寒気が走り気持ち悪さが込み上げる。