第8章 天主砲撃
バタバタと帰蝶たちの足音が遠ざかって行くのと入れ違いで、後ろからバタバタと私に近づいてくる足音が聞こえて来た。
「紗彩っ!」
聞き覚えのある力強い声が私の名を叫ぶ。
「…っ、信長様……?」
振り返ると同時に逞しい腕の中へと捕えられた。
「紗彩っ!」
苦しい程の抱擁が凍えそうな私の心を温めて行く。
信長様の胸の中がこんなにも温かくて落ち着くなんて知らなかった。
「よく見せろっ!怪我はないか……っ!」
体を離して私を見た信長様は目を見張り動きを止めた。
凍りついたその視線の先には、将軍に乱された襦袢姿のままの自分…
「あっ!」
(色々なことが一気に起こり過ぎて、自分がどんな格好かを忘れていた)
「っ、見ないで下さいっ!」
信長様にはこんな自分を見られたくなくて、袷を片手で閉じるように掴んで爪を立てられた胸を見られないように隠した。
「何があった……?」
信長様は自身の羽織を私に掛け包み込む。
「っそれは……言いたくありません」
「もしや……」
信長様の顔が苦しそうに歪んだ。
「ちっ、違いますっ!」
最悪な結果を思い浮かべたであろう信長様に、首を大きく左右に振って違うと伝えた。
「御館様っ!帰蝶と毛利元就を取り逃しましたっ!」
言葉に詰まる私の前に秀吉さんが現れて、帰蝶たちが逃げたことを伝えた。
その言葉に帰蝶が無事なのだと知り安堵していると、体が突然宙に浮いた。
「………っ、信長様っ!」
「話は二人で聞く」
そう言った信長様は秀吉さんに二、三何かを伝えると、私を抱き上げたまま商館を後にし、宿所へと私を馬に乗せて連れて行った。