第8章 天主砲撃
「元就よせっ!」
帰蝶の牽制なんて聞いていない。
「この男は測ったんだよ。信長の行動力、軍事力がどれほどのものかを、お前を助けに来る速度でな」
「?」
(どう言う意味?)
「あの男を完膚なきまで叩き潰すには、完璧な情報が必要だった。天主を砲撃され、町や民衆が混乱しても尚、どれ程の速さで動けるのかをな。それで俺たちの今後の出方を量る。お前はそのために今回信長の元から攫われてきたって訳だ」
「………っ、嘘でしょ?」
元就のことなんて、初めから信用してない。だから帰蝶に嘘だと言ってほしくて、帰蝶と視線を合わせた。
「……確認は済んだ。ここに止まる必要は無い」
視線を素早くかわした帰蝶から望んでいた答えは帰っては来なかった。
「帰蝶っ!」
「俺達はもう行く。お前は信長の元へと戻れ」
「え?」
戻れって…計画がうまく行ったから迎えに来たって言ってたじゃない……!
「帰蝶、分かんないよっ!ちゃんと私でもわかるように説明してよっ!」
縋るように帰蝶の手を取ると、彼もその手を強く握り返した。
「体調はどうだ?」
「え?」
聞きたい言葉はそれじゃないのに、どうして本当に私を心配するような顔をするの…?
「無理をせずお前の人生を生きろ」
「だからどう言う意味?」
「言葉通りの意味だ」
彼は私の手を振りほどいた。
「帰蝶!」
「いずれ必ず迎えに行く」
訳が分からず立ち尽くす私に一度だけ視線を投げて、帰蝶は家臣たちと共に地下の抜け道へと消えて行った。
これは帰蝶の計画の一部で、彼はあの綺麗な顔で平気で嘘をつく。そんな事、初めから分かってて協力したのは私だ。
私が協力をしないって伝えた時も彼はそれを承諾した訳じゃなかった。私が勝手に伝わっているのだと勘違いしていただけで……
まだ私の仕事は帰蝶の中では終わっていなかったんだ……?
優しさと残酷さを併せ持つ彼が時折見せる切なそうな顔も苦しそうな顔も全てが計画の内なの……?