第8章 天主砲撃
人が嫌がる事を勝手な解釈を立てて簡単にできる人とは言葉も心も通じない。
「……っ」
嫌だと言いそうになる言葉を必死で飲み込む。
これを拒んではダメだ。
拒んだら帰蝶が殺されてしまうかもしれない。
元就がさっき言っていた事は的を得ていた。
どん底にいた私に色々なものを与えてくれた帰蝶に愛してほしいなんて…、なんでそんな贅沢な事を思ってしまったんだろう?
彼は食べ物と寝る所を与えてくれた。
偽りだったのかもしれないけど優しさだってくれた。それだけでも十分すぎる程のものを与えてくれていたのに…裏切られている気でいたなんて……
だから私が返せるものはこんな事くらいで…
「どうじゃ?そろそろ濡れて来たのではないか?」
どうすればそんな思考回路になるのか?
将軍は一人興奮し始め、私の襦袢の裾から手を入れた。
「っ………」
唇を噛んで、襲いくる吐き気と恐怖に必死で耐える。
こうしていればいつかは終わる。
そう思い込もうとしていた時…
『紗彩笑え』
また信長様の声が頭を掠めた。
「っ……」
無理だよ。
こんなの…笑えない……
『俺は貴様を手放す気はない。他の男にくれてやるつもりもな』
信長様……
こんな時になって信長様の言葉を思い出すなんてどうかしてる。
でも、
『紗彩』
あの夜、優しく私に触れてくれた信長様の事ばかりを思い出してしまう。
「……いやっ!」
やっぱりできない!
この人には触れられたくないっ!
「生意気なっ、羽虫の分際でこの私に逆らうかっ!」
バシッ!!
「きゃあっ!」
重い平手打ちが頬に響いた。
「大人しくせよ」
「っ、…いや……」
(怖いっ!)
今までされたどんな暴力よりも、死が間近に迫った気がした。
「そうか、ひどくされるのが好きであったな?」
縄を手にした将軍は更に歪な笑いを浮かべて私の両手首を掴んだ。
「やっ!」
逃げようと体に力を入れるのに、恐怖で動かない。
(いやだっ、信長様っ!)
将軍が私の手首を縄で縛ろうとした時!
バシンッと勢いよく襖が開いた。