第8章 天主砲撃
蒸せ返るような香の匂いが充満する部屋の中、許しがあるまでは頭を下げ続けろと女中から言われていた私は、将軍の前で手と頭を畳につけた。
「頭を上げよ」
「はい」
許可を得た私は頭を上げて、正面に座る将軍と目を合わせた。
「……っ」
その目を見るだけでゾクっと肌が粟立つ。
元就の言っていた、人をすぐ斬ると言うのはあながち嘘ではないと納得するほど、目の前の男の目にはなんの情も感じられなかった。
「どれ、」
将軍は私の顎を扇で持ち上げ、確認するように見た。
「ほう…羽虫の中にも時折美しい羽を持つものがいると言うがまことよのう。なかなかの美形じゃ」
そう言うと私の胸元の着物を掴み、
「あっ!」
褥に投げるように寝転ばされた。
「下賤の身でこの私に情けをかけられること、喜ぶが良い」
汚い物でも見る様な眼差しの中にいやらしさが見え隠れし恐怖が襲う。
「まっ、待って下さいっ!」
「下賤の身で口を開くなっ!塵芥のような存在でもこの私の情けを受けられるのだ。大人しく体を開いておれっ!」
「っ……!」
人を人とも思わぬ態度に背筋が凍った。
信長様は私をこんな目で見た事は一度もない。
情婦のように扱われてると思っていたけど、こんな風に扱われた事はない。
『紗彩』
こんな時に、何故か私の名前を優しく呼ぶ信長様の声を思い出す。
「なんと、きめ細かな肌よのう」
袷から手を入れた将軍は、私の片胸を掴んだ。
ゾワっと全身の毛が逆立つように、寒気と吐き気に襲われる。
「っ、ゃっ…」
漸く口にした言葉は思ったよりも声にならず、でも将軍を苛立たせるには十分で、
「口を開くなと言うに」
ギリっと、胸を掴む手が私の肌に爪を立てた。
「いっ!」
肌を削られる感覚に思わず声が漏れる。
「ほぉ、痛くされるのが好きか?」
「いっ…っ!」
立てた爪を徐々に私の柔肌へと埋め込み、その度に将軍の口の端は上がって行く。