第8章 天主砲撃
「体調が戻ったのなら頼みてえことがあんだが…」
元就はそう言うと、私に将軍足利義昭の相手をしろと言って来た。
「っ、そんなの出来ませんっ!」
相手をするとはただお酌をするだけじゃなく、伽の相手をすると言う事だってくらい分かる。
(そんなあり得ない事を初対面の相手に頼んでくるなんてどういうつもり……?)
彼の言動に面食らっていると、元就はその理由が理解できる言葉を次に述べた。
「お前…帰蝶の間者なんだろ?信長を籠絡したその手管を使って将軍の機嫌を取ってもらいてぇんだ」
(は……?)
「……何言ってるんですか?私が間者だって…帰蝶がそう言ったんですか?」
「ああ。そうなんだろ?」
「…………」
(帰蝶が私を間者だと言ってる……!?)
いやらしい笑みを浮かべるこの男は全く信用できないけど、でもこの言葉は嘘を言っているようには思えない。
「私は..間者なんかじゃありませんっ!」
「けど帰蝶に命じられて信長の愛妾として安土に潜り込んでたんだろ?」
「それは……」
言い方は違えど私がやっていた事はそう言う事だと、彼の捉え方にまた衝撃を受けた。
「つまりお前は帰蝶にとってそう言う存在って事だろ?信長んとこの任務を終えたんだ。次は将軍様の相手だってお安いもんだろ?」
帰蝶にとってそう言う存在……
「っ、出来ません。それに私は、私は帰蝶の………」
それ以上の言葉は紡げなかった。
「何だよ?まさか帰蝶の恋仲じゃあないよな?俺だったら好いた女を他の男の元になど行かせたりしない」
「そんな事……」
そんな事言われなくても私が一番分かってる。
私は…帰蝶の何?
この時代に来てからずっと頭の中にあった疑問で、考えないようにして来たこと。
この人と話していてはだめになる。
「気分が悪いので部屋に戻ります」
逃げようと思い、部屋のドアノブに手をかけた。
「待てよ!帰蝶が殺されても良いんだな?」