第8章 天主砲撃
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商談を終えた帰蝶は紗彩の様子を見るため紗彩の部屋へ立ち寄った。
コンコンッとドアをノックするが返答がない。
(眠っているのか……?)
「紗彩、入るぞ?」
ノックをしても返答のない部屋のドアを開けて入ると、
「!…元就…何故ここにいる!」
そこには予期せぬ人物の姿。
紗彩が眠っているはずのベッドの上で元就が腰をかけ帰蝶を出迎えた。
「紗彩はどうした?」
「あの女ならいない」
「どう言う事だ?」
「別に、密偵に相応しい任務をくれてやっただけだ」
元就の意味深な笑みに嫌な感覚を覚える。
「紗彩はお前の部下ではない。紗彩に何をした?」
「あのお方を満足させる女を探していたら、ちょうどこの部屋から出てくるお前の密偵を見つけて、あのお方を満足させてくれと頼んだだけだ」
「っ、紗彩を義昭の元へ行かせたと言うのかっ!」
元就の胸を掴み帰蝶は睨みつける。
「ああそうだ」
「くだらん戯言はよせっ!紗彩が行くわけがない」
「そう思うのなら確かめにいけばいいだろ?あの女、言うことを聞かなければお前の命がないと言ったら、青い顔をして将軍様の元へと行ってくれたぜ?」
元就は帰蝶の手を振り解いて睨み返した。
「帰蝶お前、あの女は信長の元に潜ませていた密偵だって、そして信長の動きを鈍らせる枷だと、確かあの砲撃の際連れて来た時にそう言ったよな?なら将軍様の相手をさせたって問題ないだろ?」
元就は探るような目で帰蝶を見据える。
「ふざけるなっ!紗彩は義昭如きが触れていい女ではないっ!」
帰蝶は元就の問いに答える事なく踵を返し、部屋から出て行った。
「おいおい、あの女は信長にとっての枷なんだろ?お前にとっての枷の間違いじゃねぇのか?」
元就は忌々しげに呟いて椅子を蹴り倒した。