第8章 天主砲撃
「フルーツはどうだ?」
帰蝶は、今度はフルーツを勧めてくれる。
「本当にお腹空いてないの。ごめんなさい」
そう言えば…信長様も私がフルーツで笑ったと勘違いしてからは、毎回食べろと言って出してくれるようになったっけ…
『今日は水菓子を見ても笑わんのか?』
いきなりそう言われてやっぱり私は笑ってしまって…
「ふふ……」
「!」
思い出し笑いをした私に帰蝶は驚いた顔を見せた。
「お前は…先程から誰と話してる?」
「え?帰蝶とだけど…」
「言い方を変えよう。俺と話しながら、誰を思ってる?」
「!」
ドキっとした。
心の内の何もかもを暴こうとする帰蝶の視線から目を逸らした。
「誰も……強いていえば昔の帰蝶かも…」
この言葉に嘘はない。
この部屋に戻って来てからいつも、帰蝶だけを見て過ごしていた日々を思い出してる。
何を食べても美味しくて甘くて幸せで… そしてたくさん笑っていた。
例え信長様の元に行ったとしても、ここに帰ればそんな日々にまた戻れると信じていたあの頃の自分を…
「いつになれば部屋から出てもいいの?」
ここに来て三日も経つのに、私はまだ部屋の外へは出してもらえない。
「まだ本調子ではないお前を外に出すわけにはいかない」
「そう……」
「まずはしっかり食べろ。顔色が戻れば外へ連れて行ってやる」
私の頬を親指の腹で撫でると、帰蝶は食べ終わった自分のお皿を手に持ち部屋から出て行った。
変わったのは帰蝶じゃない。
外に出るなと言うだけで、部屋に鍵をかけられているわけでも、信長様の様に見張りを置くわけでもない。帰蝶は、帰蝶がそう言えば私が言う事を聞くと知っているから、する必要がないんだ。
でも、私はもうひたすらに帰蝶の愛を求めていた頃の私じゃない。
「海が見たいな…」
この部屋はあまりにも帰蝶との思い出に溢れていて息が詰まりそうで、どこまでも続く広い海を見て、一回頭を空っぽにして落ち着いて考えたかった。
椅子から立ち上がり部屋のドアを少しだけ開けた。
やはり見張りはいない。
商館の事をよく分かってる私は、そっと音を立てない様に部屋の外へと出た。
このまま海を見に行こうとした時、
「やっと会えたな」
背後から知らない男性の声がした。