第8章 天主砲撃
天主砲撃を受けた安土城では、武将達を集めて日夜軍議が開かれていた。
「城内外の動揺はひとまず治りました」
「そうか」
「慶次からの知らせがなければ未だ情報収集に飛び回っているところでした」
秀吉が苦虫を噛み潰したような顔で言葉を口にした。
「そうだな」
「それにしても、あいつもふらっと出て行ったきりどこへ行ったのかと思えば敵陣に潜入していたとは驚きましたが…」
「だがそのおかげで此度の黒幕がいち早く分かった」
信長は表情を崩す事なく秀吉の言葉に答えた。
「戦で役に立つのなら構わん。今後も好きにさせておけ」
織田の家臣である前田慶次のもたらした情報は、同じく元織田軍にいた帰蝶が織田討伐を企てていると言う事。そした帰蝶は堺で商館長として身を起き、異国から大量に武器を購入し戦支度をしていると言うもの…
此度の天主砲撃も予想を遥かに超えた距離からの大筒での砲撃と見て間違いなく、敵は帰蝶であると断定した。
「紗彩も、恐らくは帰蝶が連れ去ったものと…」
秀吉は言いづらそうに言葉を付け加える。
「恐らくはな……」
信長は短くそう言うと、脇息にもたれ考え込んだ。
(だが解せぬ、なぜ紗彩を攫った?)
狙い所は間違っていないどころか大当たりだが…まだそれ程に紗彩の存在は外には広まっていないはずだ。
城内の事を外に漏らすことは禁じてあり、紗彩が城下へと出たのも両手で足りる程…
「間者か……?」
あの男の事だ、間者の一人や二人忍び込ませていてもおかしくはない。
だが側室でも正室でもない、俺が本能寺より連れ去った女に奴がそこまで人質の価値を見い出すとは思えぬが……
三年前に織田軍を去った男と、京で見つけた記憶喪失を装う見目麗しい女…
二人に共通点などはないが、何か引っ掛かる……
「御館様、ただ今戻りました!」
解けぬ課題に頭を悩ませている所に、偵察に出ていた光秀が戻って来た。