第8章 天主砲撃
「天主は…信長様達は無事なの?」
(その確認すら出来ずにここに来てしまった)
「目が覚めて初めに聞く事がそれか?すっかりあの男の情に絆されたとみえる」
帰蝶は僅かに眉間を寄せ呆れた声を出した。
「っ、そんなの当たり前じゃないっ!目の前でお城の天守が燃えて、あそこにはいつも信長様がいて…秀吉さんや家康…みんなの無事を心配するに決まって……っ、花は?私と一緒にいた女の子は無事なのっ!?」
やっぱり侍女になんて付いてもらうんじゃなかった!
私のせいで関係のない彼女を巻き込んでしまった。
「……あの女なら無事だ」
帰蝶はそう言うとコップをテーブルに置いて立ち上がった。
「待って!」
部屋から出て行こうとする帰蝶の外套を掴んで止めた。
「どうして私をここに連れて来たの?」
「どうして?計画がうまくいけば迎えに行くと言ったはずだ」
「上手くって……」
(信長様に何かあったって事……?)
「あの男はまだ生きている」
「っ……!」
(良かった、生きてる……!)
その言葉に安堵し力が抜けると、眩暈に襲われた。
「紗彩っ!」
帰蝶の手が私の体を支え、ゆっくりとベッドへ寝かせてくれる。
「ごめん。ありがとう」
「まだ本調子ではないだろう。ゆっくり休め。話はそれからだ」
私の頭をゆっくりと撫でて、帰蝶は部屋から出ていった。
「秀吉さん達も、無事だよね?針子部屋の人たちも誰も怪我してないよね?」
町の人々の混乱は落ち着いただろうか?
花は、私がいなくなった事で叱られてはいないだろうか?
頭に浮かぶのは、安土の人々のことばかり…
「はぁー」
深いため息をつきもう一度部屋を見回せば、やはり私がいた頃のまま…
「どうして今さら……」
あんなにも帰りたいと思っていた部屋に帰ってくる事ができたのに、心は複雑な音を立てて鼓動を刻み続けていた。