第8章 天主砲撃
人生をもう一度やり直せるとしたら、あの飛行機事故の前に戻りたい。
おしゃべりでよく笑う母と、物静かな父。
そして一人っ子の私たち家族はとても仲が良かった。
来年は受験生だから今年はたくさん旅行に行こうってなって、その旅行に行く飛行機で人生が変わってしまった。
命以外全てを失ってしまった私は、帰蝶に出会い初めての感情を知った。そして信長様からも、感じたことのない様々な感情を教えられた。
飛行機事故の前に戻れるならば戻りたい。
けれどそれは、帰蝶や信長様との出会いをなかったものにすることで……
私は、2人に出会わなければよかったと、思ってるんだろうか?
それとも………
……………
「…………」
(ああ………私、寝てたんだっけ?)
目が覚めた事で、自分が寝ていたのだと気づく。
ぼーっとしていた視界がクリアになって行き、懐かしい天井が飛び込んで来た。
(ここ…私が使っていた商館の部屋だ)
頭を横に向ければ私がいた頃のままの部屋に、まだ愛を信じて疑わなかった頃の思い出が蘇る。
「目覚めたのか?」
反対側から声がして振り向くと、椅子に腰掛け私を覗き込む帰蝶と目が合った。
「帰蝶……?」
「気分はどうだ?水を飲んだ方がいい。起きられるか?」
「うん」
返事をすると、帰蝶は私の背中に手を添えて起き上がらせてくれた。
「っ、…!」
体を動かした振動で頭がズキンっと痛んだ。
「大丈夫か?ほら水を飲め」
ガラスのコップに入ったお水を私の口にあて水を飲ませてくれる。
(もしかして…長い夢を見てたのかな?)
優しく私にお水を飲ませてくれる帰蝶に、今までの事は長い夢を見ていたのではないかと思ったけれど…
「薬が効き過ぎた様だな。二日も目を覚まさず案じたがもう大丈夫だろう」
その言葉で、あの城下町で起こった事は夢では無かったのだと再び夢から覚めた心地がした。