第8章 天主砲撃
(どうしよう、もし天主にいたら……?)
また私のせいで信長様に何かあればと考えるだけで、胸の鼓動は余計痛みを増して跳ねる。
「っ…ダメっ。変なことは考えない」
この目で無事を確認しなければと必死で走っていると、突然手首を掴まれ路地裏へと引っ張られた。
「あっ!」
「騒がないで下さい!」
男性の声が耳元で聞こえ、口元を手で塞がれた。
「………!?」
(誰っ!?)
「手荒な事をしてすみません。帰蝶様がお待ちです。どうかこのまま連れ去られる振りをして下さい」
男性はそう言うと口元の手を緩めた。
「帰蝶が?ここにいるの?」
(この騒ぎをどこかで見てるってこと!?)
「帰蝶様はこの先にある港であなた様が来るのをお待ちです。この騒ぎに乗じてあなた様をお連れします」
「きゃあっ、紗彩様っ!」
「花っ!」
突然いなくなった私を探し出してくれたであろう花は、私を見るなり叫び声を上げ、次の瞬間違う男に羽交い締めにされ短剣を突きつけられた。
「やめてっ!彼女を傷つけないでっ!」
「あなたを連れ去り次第、あの女は解放します」
私を連れ去るって、
「帰蝶が、彼が本当に私を連れて来いと言ったの?」
「はい。我々はあなた様が城を出たのを見計らい天主への攻撃を始めました。お連れするのは民の意識が天主に注がれている今しかありません」
「もし…行かないと言ったら?」
「力づくで連れて行くまでです。その時はあの女も、我らの姿を見た周りの民の命もないものとお思い下さい」
彼はそう言って目配せをすると、町民に扮した男達が胸に隠し持つ短剣をチラつかせた。
「そんな……っ!」
「早く決断を!もう一刻の猶予もありません」
決断なんて…選択肢は一つしかない。
「………っ、分かりました。あなた方と一緒に行きます」
帰蝶はいつだって私に選択させると言って、その実一つしか私が選べないことを知っている。
「では暫く気を失って頂きます。失礼!」
「えっ?……っ!」
口元に手拭いが当てられ何かを嗅がされると、
「紗彩様っ!」
花の叫び声が、だんだんと遠のいていった。