第8章 天主砲撃
「信長様の睨みが効いたと言えばそうかもしれませんが、一番の理由は紗彩様が身を挺してまで針子頭の父上を庇った事です。それで皆の心が動かされ、それまでの行いを悔い改めることとなったからです。そしてそれは私も同じです。悪口を言われていることも、着物を池に投げられていることも知っていたのに、見て見ぬ振りをしておりました。本当に申し訳ありませんでした」
彼女は今度は深く頭を下げた。
「謝らないで下さい。あの事件は、私さえこのお城に来なければ起きなかった事。私が悪いんです」
「そうではありません。皆…紗彩様が羨ましくて、その羨ましいと思う気持ちが嫉妬という形で現れてしまったんです」
「私が…羨ましい?……羨ましく思えるところなんて、私には何もないのに…」
家族も家もお金も…私には何もないのに……
「信長様のお心を射止められた。それがとても羨ましかったのだと思います」
「え?」
「私はこの安土城が築城された時からここの女中として働いておりますが、信長様が女性に心奪われるお姿は初めて見ました」
「それは…違うと思います」
「違いません。信長様はいつも紗彩様のことを思っておられます。侍女の事だって、紗彩様が相談に乗りやすい年頃の近い娘をと仰せになって、手を上げた女中一人一人と信長様が直々に面接をして決められたのです」
「そう…なんですね………」
侍女は、監視のためじゃなかったんだ……
「紗彩様が廊下を歩くお姿を信長様はいつも熱い眼差しで見つめ、その姿を追っているのを私は何度も見ております。見ているこっちの方が照れてしまうほどで、紗彩様の事をとてもお好きなのだと伝わって来ます」
「っ、それは……」
その言葉に、もう違うとは言えなかった。