第8章 天主砲撃
朝餉を済ませ部屋へ戻ると、花さんが待っていた。
「紗彩様おはようございます」
キラキラした笑顔に、昨日から侍女がついた事を思い出した。
「花さん、おはようございます」
(昨日は色々ありすぎてすっかり忘れてた)
「紗彩様、さん付けも敬語もおやめ下さい。どうか花とお呼び下さい」
彼女は笑顔を崩さずお願いする様に頭を下げた。
「あ…ごめんなさい。こう言うことに慣れていなくて…、花さんも私なんかの侍女にさせられてしまって申し訳ないです。私は今まで通り一人で大丈夫ですから、後で秀吉さんに元のお仕事に戻して頂けるようにお願いしてみるので少しの間我慢して下さい」
私の侍女になるなんて”はずれくじ”を引くみたいなもの。早く元の仕事に戻してあげたい。
「紗彩様、私は自らの意思で紗彩様の侍女に付きました。紗彩様が辛い目に遭っていることを知っていたのに見て見ぬ振りをしていた自分が許せなくて……、ですからお側に仕えさせて頂くことで少しでもあの日々を償わせて頂きたいのです」
「花さん」
敵だらけだと思っていたこのお城の中で、そう思ってくれる人がいただけで十分だ。
「ありがとうございます。でも私の側にいると花さんが辛い目に遭うかもしれません」
虐められる子を庇えばその人も同じ目に遭う事はよくあることだ。
「私のせいで誰かが傷つくのは嫌なんです。花さんにもそれは同じです」
「それなら大丈夫です。今この城内で紗彩様のことを悪く言う者はおりません。安心なさってください」
確かに、あの事件から城内の人達のきついあたりも陰口もパッタリと無くなった。でも、
「それは信長様が睨みを効かせているからで、解決した訳ではありません」
その証拠に、昨夜の織田領内の家臣たちを集めた宴ではやはり口さがない言葉が聞こえてきて、それを信長様が諌める形となった。