第8章 天主砲撃
「当たり前だ。今朝は貴様の好物ばかりを用意させたからな」
「え?」
「食の細い貴様でも残す事なく食べられるよう好物を用意させた」
「どうして…と言うか、私の好きな物を…ご存じなんですか?」
(ご飯を一緒に食べたことなんて、数えるほどしか無いけど…)
「何度か共に飯を食えば貴様の好き嫌い位は分かる。貴様の場合はほとんど手をつけぬゆえ好物を見つけるのに苦労したがな…」
「……っ、」
(そんなにも…見てくれてるの?)
伸びてきた手に体は無条件にビクッと反応し身構える。
そんな私の反応に信長様は一瞬手を止めたけれど、再び伸ばして私の横髪をすいた。
「好物を食せば失われた記憶も戻るやもしれん。しかと食べて元気になれ」
「……っ、あ、ありがとう..ございます…」
元気になれなんて言葉を聞くなんて、久しぶりに会った昨日から本当に別人のように優しい……
「水菓子も好きであろう?」
「え?…あ、はい」
信長様は私の前に山盛りに積まれたフルーツを置いた。
「全て食べよ。遠慮はいらん」
遠慮はって言われても…、目の前に置かれたフルーツ盛りは軽く十人前はありそうで………
「ふふっ、いくら好きでもそんなに沢山は食べられません」
真面目な顔で言うから、つい、クスッと笑ってしまった。
「………っ」
そんな私を信長様は固まった様に見つめ、息を呑むのが分かった。
(笑ったりしたから…怒ったのかも…!)
怒らせた時の荒々しい態度を思い出し不安になっていると、
「初めて笑ったな」
「え?」
「水菓子を出せば貴様が笑うとはいい事を知った」
予想に反し、髪をすいた手は優しく私の頬に触れ、優しい笑みを浮かべた。
「……っ、別に水菓子で笑った訳では…」
「きっかけは何でも構わん。だがこれからも笑え。貴様の笑顔が見たい」
「………!」
恐怖の化身だと思っていた人が別人のように優しく私に笑いかけるから、落ち着いていた頬が再びじわじわと熱くなった。
優しい信長様にも、優しくされることにも慣れていない私はこんな時どうすれば良いのかが分からず、でもこのお城に来て初めて食事を美味しいと感じ、完食させることが出来た。