第8章 天主砲撃
目覚めれば、久しぶりに信長様の腕の中。
いつから目覚めていたのか…見上げると信長様と目が合った。
「……っ、おはようございます」
鼓動は昨日同様にドクンと跳ねる。
この胸の高鳴り方には覚えがあるけど、深く考えたくない私はすぐに別のことを頭に思い浮かべてそれを追い払った。
信長様との夜は長い。だから起きた時にはいつも裸同士、抱きしめられたまま横たわっている。
けれども今朝は、この一糸纏わぬ姿で抱きしめられていることがいつも以上に落ち着かない。
「部屋へ戻ります」
起き上がるため信長様の腕から抜けようとすると、
「朝餉を食べて行け。貴様の膳もここへ運ぶように伝えてある」
「え?」
「朝餉までまだ時間がある。それまではこのまま俺の腕の中にいろ」
ぎゅっと腕の中に再び閉じ込められた。
『あの男が女を側に置くなど過去には一度もない。夜伽をしてそのまま朝まで褥を共にしたこともな……』
こんな時に、帰蝶の言葉が頭を掠める。
「………っ」
昨日から信じられないほどに信長様が優しくて甘いからなのか、お腹や胸の辺りがくすぐったくてじっとしていられない。
緩めてはもらえない腕の中、それでも寝返りを打ち信長様に背中を向けることで内から湧き出るくすぐったさを堪えた。
(まだこの方が落ち着くけど…)
せめて襦袢だけでもと言ったところで、多分聞いてはもらえない。
信長様に背中を向けたから当たり前だけど、背中から抱きしめる形だと信長様の吐息が耳にかかりどうしても意識してしまって落ち着かない。
昨日からずっと熱いままの頬を持て余したまま、目を閉じて眠った振りを続けた。
やがて日が登り始め互いに支度を済ませると、朝餉の膳が運ばれて来た。
(あれ、偶然かな…?私の好きな物ばかり…)
朝餉の膳には私の好きな物ばかりが置かれている。
「如何した?」
膳をじーっと見つめる私に信長様が声をかける。
「あ、いえ……今朝は私の好きな物ばかりなので驚いてしまって…」
好き嫌いはしないように心掛けてはいるけど、苦手なものや食が進まないものが今朝の膳には一つもない。