第7章 変わって行くもの
天主の部屋へ戻って来た信長様は、既に敷かれてあった褥の上に私を降ろした。
「あの、ありがとうございます」
「何の礼だ?」
「先程の、情婦と言った事に対しての信長様のお言葉にです」
「己の女を侮辱されて黙っておる男などおらん、あれは当たり前のことをしたまでのこと」
「っ、それでも嬉しかったです。ありがとうございました」
本当に本気で意外だったし、それ以上に私は嬉しかったんだ。信長様が私をちゃんと紗彩として見てくれていた事に…
「ふっ、貴様が俺に礼を言うなど、珍しい事もある物だが悪くない」
気を良くした信長様は私を褥へと押し倒して覆いかぶさった。
「あの、今宵は他の女性の元へ行かなくて良いのですか?」
あの日、怒らせてしまったあの日以来、信長様は私をお召しにはなっていない。きっと他の方がお相手をしていたはず…。
それに信長様の声がかかるのを心待ちにしている女性達が今日の宴にもたくさんいたはず…
「貴様は、まだそんな事を言っておるのか」
呆れた顔が私を見下ろす。
「貴様は俺の何だと今さっきの俺が言ったか覚えておるか?」
機嫌の良かった顔は途端に曇った。
「あの、信長様の女だと…」
「そうだ。貴様は俺の女で、俺が抱く唯一の女だ。いい加減覚えよ」
「………っ、…はい」
信じられない言葉は続くものだ。
唯一の女……?
私が………!?
まただ。胸がきゅっとなる。
「悋気を起こすかと思えば逆に他の女のところへ行けとは、まこと可愛げのない女だ」
拗ねた顔が迫って来る。
口づけるつもりだと分かってはいるのに、顔は信長様の視線に捕らえられたまま動かない。
拒まなければいけないのに今夜はなぜか拒む気にはなれずにいると…
「ふっ、口づけはせんのであったな」
吐息が唇にかかる距離で、信長様はピタッと止めて頬に口づけた。
「………っ、」
ギュッと心臓を掴まれたような感覚がして途端に我に返った。
(私、今…キスされたかった……!?)
待ち侘びた熱を逃した唇はカサカサと急な乾きを覚える。