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おとぎ話の続きを聞かせて【イケメン戦国】

第7章 変わって行くもの



天主に続く長い廊下を、信長様は私を抱き上げたまま歩いて行く。



「………っあの、自分で歩けますので下ろしてください」

「構わんじっとしていろ」

「でも……」

私は、事故のトラウマで高い所が苦手だった。
だからベランダにも出られないし、帰蝶のタワーマンションでも窓際に寄った事はなかった。ここでも、天主の廻縁には自分から出たことはない。


「あの、本当に下ろしてもらえませんか?」

例え高い所でなくても足が付かない状態は不安になり体を震えが襲う。


「案ずるな、貴様を落としたりはせん。それほどに怖いのなら俺にしかとしがみついておれ」


どんなに頼んでも、抱き上げられて途中で下ろしてもらえたことはない。


「………っ」

だから私は、信長様に言われた通りに信長様の首に両腕を巻き付けて天主に着くまで目を閉じて耐えた。


  



======

紗彩の吐息が首筋に掛かる。


(俺も姑息な男だな)


紗彩が高所を恐れている事は分かっている。
だがそれを利用してでも俺は紗彩に抱きつかれ奴の肌の感触を欲している。

小刻みに震える紗彩を哀れと思えども己の欲望には勝てず、この間だけは奴が俺に身を委ねているような気がして、怯える身体を抱きしめ天主へ続く廊下を進んだ。


紗彩が高所に怯えている事が分かったのは、奴を俺の馬に乗せた時だった。


本能寺より連れ帰り数日経ったある日、奴に城下を見せてやろうと馬に乗せた。

『っ、……』

普段は気持ちを見せぬよう努力している紗彩の顔はみるみる内に青白くなり体は震え出した。

『如何した?』

『い、いえ、…ただ気分が…』

カタカタと震える手が俺の着物の襟をギュッと握った。

たったそれだけの事なのに、捕まれたのが着物ではなく心の臓ではないかと思うほどに胸が締め付けられた。


気分が悪いと言う言葉に嘘はないほどに、今にも気を失いそうな紗彩を下ろしてやればいいものを、俺は奴から触れて来たこの手を逃したくなくて、

『しかと掴まっておれっ!』

『えっ、きゃあっ!』

馬をそのまま走らせ城下を回った。





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