第7章 変わって行くもの
「こやつの名前は紗彩だ。次にその言葉を言えば、首が転がり落ちると思え」
その言葉で、広間がシーーンと静まり返った。
「……っ、」
(どうして……?どうして信長様が私の事で怒るの?)
最初に浮かんだのはそんな考え。
そして次に、またこの間の針子頭の様に家臣を斬り捨てるかもしれないと思い、それを止めようと信長様の手を掴んだ。
「なんだ?」
「あ、いえ、あの…私は気にしてませんから…」
「貴様の事を侮辱したのだ。俺は気にする」
「え?」
「貴様もそんな呆けた顔をしておらず違う事は違うと言え」
「…は、はい。すみません」
意外だった…
信長様自身が、私を情婦だと思っていると思っていたから…
「貴様は俺の女だ。堂々と俺の隣に居ればいい」
「……っ、」
その言葉に、不覚にも心がキュっと掴まれ温もりを覚えた。
(あ、泣きそう…)
不意打ちの優しさで目頭に熱く込み上げるものを感じて、瞬きを繰り返して落ち着かせる。
「どうした?」
そんな私を信長様が不審に思い覗き込むから、
「あの、何でもありません」
潤んだ目を見られまいと、慌てて顔を伏せて隠した。
信長様はそんな私をじっと見つめたあと…
「………来い」
「え?……わっ!」
ふわりと、体は宙に浮いた……訳ではなく、信長様に抱き上げられた。
ザワッと広間がざわめき、そして静まり返った。
「こやつの気分がすぐれぬゆえもう休む。貴様らはそのまま続けよ」
信長様が言葉を発した途端、広間はまたざわついた。
「本当に寵愛されておるのだな」
「片時も離さぬとは聞いていたが本当だな」
「こんな信長様、初めてだ」
など、様々な声が聞こえてくる中、信長様は私を横抱きに抱いたまま広間を後にした。