第7章 変わって行くもの
「きっと紗彩様を皆様に紹介する宴なんでよ。見て下さいこの打掛、素敵ですよね」
いつも部屋の隅に置かれてあった大衣桁(だいいこう)には、いつのまにか打掛が掛けられていて、彼女はそれを私が着るみたいな口調で告げた。
「それも…着るの?」
「はい。もちろんです!」
「………」
打掛も用意されているなんて…、それだってここに来て初めて着る物だ……
「さっ、時間もありませんし、お着替えいたしましょう。お立ち頂けますか?」
納得のいかないまま言われるままに立ち上がり、着物が着付けられていく。
着物の下に着る襦袢や小物全てに見事な刺繍が施されていて、初めて使われるであろう帯締たちはまだこなれていなくて結びづらそうなくらい見事な組み紐仕立てになっている。
「良くお似合いです」
仕上げに打掛を私の肩に乗せて、花さんは感嘆のため息を漏らした。
そのため息の気持ちは分かる。
針子をしてるからこそ余計に分かる本当に素敵な打掛だけど…
「本当に私のかな……?」
安土城内には姫と呼ばれる女性がいないから分からないけど、こんなの、身分の高いお姫様しか着ないイメージだ。
「もちろんです。全て信長様が選ばれた物と聞いております。紗彩様に似合う物を良く分かっておいでなのですね」
「そうなんだ……」
信長様が選んだ物…
それは私に?
それとも…他に贈る予定の姫に断られたから…とか?
分からない…
私は…笑顔だけでなく素直に考えることも出来なくなってる……?
「紗彩様、広間にて信長様がお待ちです。お急ぎ下さい」
「……はい。分かりました」
気持ちが固まらないまま迎えの女中さんが来て、着こなし方も分からない打掛の袖に手を通して広間へと向かった。