第7章 変わって行くもの
そんなモヤモヤを抱えながら部屋へ戻ると、見知らぬ女性が頭を下げて座っていた。
「………誰?」
「花と申します。本日より紗彩様付きの侍女となりましたので、宜しくお願い申し上げます」
「侍女?…えっと…あなたが?」
「はい」
彼女はまだ頭を畳につけたまま答える。
(そっか…私が許可しないと頭を上げられないんだっけ……?)
この時代の面倒くさいしきたりを思い出す。
「あの…頭を上げて下さい。私には頭を下げる必要はありませんから。それに侍女なんて…」
(監視に侍女にって、私を本当に逃さない気なんだ……?)
頭を上げた女性は、私と同じ年位に見える。
「紗彩様のお世話を精一杯させて頂きます」
ニコッと、花と言う彼女の名前の様に花が綻んだ様な笑顔を私に見せた。
裏切られ続けてきたから、この笑顔が本物か作られたものかくらいは分かる。
彼女の笑顔にはいやらしさが全くない。本当に私に笑ってくれてるんだ…
「私に侍女なんて…必要ないと思うけど…」
でもそんな素敵な笑顔すらも今の私には素直に受け止められず、彼女を不快にさせてしまうであろう言葉が口から出てしまう。
「信長様から直々に仰せつかりました。紗彩様付きになれてとても光栄です」
私の言葉も気にせず、彼女はもう一度笑顔を見せてくれた。
「笑顔が…素敵ですね」
彼女の笑顔を見て、もうずいぶんと自分が笑っていない事に気がついた。
「ええっ、そんな事を言われたのは初めてです。ありがとうございます」
照れた笑いも可愛らしい。
そんな彼女にとても心がホッとして、忘れていた温かみを思い出した。
「早速ですが、本日この城内で織田家家臣を招いての宴が催されますので、紗彩様もこちらの衣装にお着替え下さい」
彼女はそう言って、華やかな衣装一式を私の前に置いた。
「え?私が宴に……?」
「はい。必ず出席する様にと仰せつかっております」
「どうして急に……?」
宴が催されるのは珍しい事じゃない。けど、ここに来てからそんな事を言われたことは一度もなかったのに…
「何かの間違いじゃない?この衣装も…私が着る物には思えないけど…」
用意されている衣装は遠目から見ても豪華な物だと分かる。私のような者が着ていい代物じゃない。