第6章 帰蝶の企み
「知っているか?今の信長はお前を愛した事で戦い方すらも変え始めている」
「え?」
「お前が望んだ事だ。違うか?」
「……っ、違うっ!そんな事、望んだ事なんてないっ!それに信長様とは怪我をしてから今日まで会ってもいない!信長様が私の事をなんて、そんな事は絶対にないっ!」
息が上がる。
だってあの日、私が他の人の元へと言ったら、信長様はそうするって言ったもの。だからもう私のことなんて忘れてるに決まってる。そうなることを望んでいたし、そうなって安心しているはずなのに……、どうして鼓動はこんなにも嫌な音を立てるんだろう……?
そんな私を、帰蝶は表情ひとつ変えずに見据える。
「直接口に出さずとも、お前の態度や思いがあの男の戦い方を変えた。そして、それに賛同する大名が増えているのも確かだ。天下布武はいよいよ目前に迫って来たと言うわけだ」
「でもそれを…阻止するんでしょ?一体どうするつもり?」
「やり方はいくらでもあるが、手っ取り早いのは、お前の裏切りをあの男が知る事だ。それだけで奴は怒り狂い織田軍は混乱する」
「だから…信長様は私のことなんて何とも思ってないって言ってるじゃないっ!私の裏切りを知ったところで信長様は傷ついたりしない!」
「お前は…男と言うものを何も分かっていない」
落ち着けと言わんばかりに、帰蝶は私の頬をゆっくり指で撫でる。
「あの男は裏切られた時こそ、その残虐性を発揮する。愛に飢えた男が愛した女に裏切られていると知った時、あの男は本領を発揮し、この国は乱れに乱れる」
「そんな世の中間違ってる。誰も幸せになれない」
「それでいい。平和な世など訪れるべきではない」
帰蝶の瞳が危うく揺れる。
「何が…帰蝶をそんな気持ちに駆り立てるの?帰蝶は、一体何と戦っているの?」
平和な世の中を嫌うなんて…どうして?
帰蝶の不安定な心の内を知りたくて、それを何とか覗こうと彼の目を見つめた。