第6章 帰蝶の企み
「俺は外から、お前は内からあの男を攻めて落とす。お前の怪我は想定外だったが、お前は予想以上にいい働きをしている」
帰蝶の薄笑いも言葉も意味が分からない。
人が一人そのせいで亡くなってしまっているのに、なぜそんな口元に笑みを浮かべて話せるの?
「……っ帰蝶は、勘違いしてる」
「何?」
「信長様は、私に心を奪われているわけでも、愛してるわけでもない!あの人はただ玩具のように自由に出来る私を楽しんでるだけ、それだけだよっ!」
報告を受けているのなら、帰蝶だってそんなこと分かってるはず!
「……お前は、本当にそう思っているのか?」
「え?」
「あの男が女を側に置くなど過去には一度もない。夜伽をしてそのまま朝まで褥を共にしたこともな……」
「………っ」
「お前が怪我をした折には、自らの部屋で看病したとも聞いている。それだけの事をされてもお前はまだあの男がお前に何の関心もないと思うのか?」
「それは…壊れかけた玩具を直そうと思う心理…だったからでしょ?」
ねぇ…分かってる?
あなたが好きだと言っているのに、他の男との夜伽事情をつらつらと述べ、その男の気持ちまで汲み取れと言うことの残酷さを……?
「俺の目に狂いはない。お前を一目見た時に俺には分かった。あの男は必ずお前に夢中になると…」
「どう言う意味……?最初から私を、そのつもりで側に置いてくれたの?」
(だからあの日、私に声をかけてくれたの?)
以前は飲み込んだ疑問を、今回ばかりは飲み込めずにぶつけてみた。
「勘違いはするな。俺はお前に元の時代で生きろと言ったはずだ。ここに来ることを望んだのも、何でもすると言ったのもお前だ」
「……っ、」
答えてくれたけど、それは答えにはなってない。
綺麗で形の良い帰蝶の口からは、次々と残酷な言葉が飛び出し、その度にお前の事は何とも思っていないと言われているようで、心を抉られるような痛みが走った。