第6章 帰蝶の企み
「紗彩です」
「入れ」
二ヶ月ぶりに聞く帰蝶の声……
「失礼します」
襖を開けて部屋へ一歩入ると、奥に座る帰蝶と目が合った。
綺麗な萌黄色の瞳に、やはり胸はトクンと高鳴る。
「いやに他人行儀な入り方だな」
緊張でつい敬語となってしまった私を見て、帰蝶は目を細めて笑った。
「…あ、うん。久しぶりだから……」
「先月は悪かった。どうしても戻らねばならない案件があったのでな」
「うん、分かってる」
(信長様より高い帰蝶の声……そう言えば…もう随分と信長様の声を聞いていないな…)
ふとそんな事を考えていると、
「 紗彩」
「あっ……!」
帰蝶の手が私の手首を掴んで引き寄せ、彼の膝の上に崩れ落ちた。
「……っ、帰蝶?」
「まだ傷が痛むのか?」
「え?」
「俺を見れば犬のように走って抱きついて来たお前がそれをしない理由はそれしかない」
「………」
(どうして…その事を知ってるの……?……ああ、城内には私の他にも帰蝶の手の者がいるんだ……)
浮かんだ疑問はすぐに自分の中で解決できた。
だから帰蝶は、私がどこに傷を負ったのかも全部分かってるんだろう。
その証拠に、私を腕に閉じこめた帰蝶は、私の背中と頭を優しく撫でた。
500年後の世界で、二人で過ごした日々が甦る。
出会ったばかりの頃も、帰蝶は傷つき怯える私を抱
きしめ背中をさすって気持ちを落ち着かせてくれた。
優しくされる事は、今日の自分の予定には入っていなかったから……
「大丈夫。どこも痛くないよ」
帰蝶の優しさに心が負けてしまう前に、私は帰蝶の背中に腕を回して一瞬抱きしめ、そしてすぐに離れた。