第6章 帰蝶の企み
信長様の訪れもお召しもなくなって数日後、城内は甲斐の虎と越後の龍が生きていたとか何とかで騒がしくなり、信長様達は戦でお城を空けることが多くなった。
私の刀傷も塞がり元の生活が出来るまでに戻っていた。
「紗彩様、外出の許可が降りましたよ」
「本当ですかっ!ありがとうございます」
帰蝶との約束の日が明日となり、私は外の見張りの方にお願いをして外出許可を取ってもらった。
(良かった。許可が降りた)
あの日、信長様が私の部屋を出て行って以来、私の行動には常に見張りが付くようになった。
針仕事に戻った後も、外出許可だけはどうしても降りなかったけれど、護衛を付けることを条件に外出許可が出たのだと、許可を取ってくれた方が教えてくれた。
そして当日、私は護衛の方と共に帰蝶と約束している呉服屋へとやって来た。
「品物を納めてまいりますので、ここでお待ち頂けますか?」
私一人じゃないと分かれば帰蝶は会ってくれない。
だから店中に入られる訳にはいかなくてそうお願いすると、
「かしこまりました」
と思いのほかあっさりと聞き入れてくれた。
「ごめんください」
気の乗らない声で暖簾をくぐる。
今日は帰蝶に伝えなければならない事があり、その事が私の気持ちを底の方まで落としていた。
「紗彩様いらっしゃいませ。奥にお待ちでございますよ」
主人のいつもの笑顔が今日は直視できない。
「ありがとうございます。これ、ご依頼頂いた着物です」
お店の主人に仕立てた着物を渡し、私はいつもの奥の部屋へと向かった。
この廊下を歩く時は、いつも嬉しくて早く会いたくて胸を躍らせてた。
あんなに楽しみにしていたはずの約束の日だったのに、今日は胸は踊らない。それどころか、心の拠り所で全てだった人を失うであろう恐怖で心臓が爆発しそうだった。
でも、今日が帰蝶に会える最後の日になるかもしれないって覚悟は…あの斬られた日からずっとして来た。
だから大丈夫。
ちゃんと、思ってる事を彼に伝えよう。