第5章 過去の記憶
「………っ!」
開いた先には、静かに睨みをきかせる信長様と、渋い顔をした秀吉さん……
「紗彩…お前何して…」
「ここで何をしておる?」
秀吉さんの言葉を遮り、信長様が口を開いた。
ゆっくり凄みの効いた声はこの城に来たばかりの頃、私を褥の中で組み伏せた時の声と同じで体が震え上がる。
「っ………」
「紗彩、答えよ」
そう言って信長様は一歩私に近づく。
「っ、………あっ!」
あまりの恐怖にやっとの事で立っていた体の力が抜け膝から落ちた。
ガシッと、逞しい腕が私が床へ落ちるのを防ぐ。
「立つ事もままならぬ体で何をしておるのかと聞いておる」
私を助けてくれたのかと思えば、静かな怒りを含んだような声が私の耳元を掠める。
「………っ」
恐怖からその手を振り払って離れその場で頭をついた。
「!」
驚いた信長様の顔が一瞬チラッと見えたけど、今言わなければ言うことも言わせてもらう事も出来なさそうで…
「……っ私を…この城から追い出して下さいっ!」
とにかく言わなければならない言葉を伝えた。
「は……?」
「紗彩お前、三日三晩熱の下がらなかったお前の看病を信長様はずっと……」
秀吉さんが口を挟む。
「え?」
(三日三晩っ!?)
「秀吉っ!」
「ですがっ!」
「貴様は黙っていろ!紗彩続けよ」
「……っ」
三日三晩も眠り続けていた事には驚いたけど、今はそれどころじゃない。
「このお城に私がいると皆に迷惑をかけます。ですから私をこのままお城から追い出して下さいっ!どうかお暇を」
ピリピリとした空気が漂う。
頭を下げているのに、なぜか鋭い目が刺ささるように私を見下ろしているのが分かる。
「紗彩」
名前を呼ばれビクッと体が跳ねる。
(怖い……)
床につく手が震えて、その手を握って震えを隠した。
「暇をやる気はない」
「えっ?」
その声に反応して顔を上げると、信長様の腕が伸びて来た。
「ゃっ!」
胸ぐらを掴まれ暴力を振るわれると思い顔を背けると、逞しい腕は私の膝と背中にまわり、ふわりと抱き上げられた。
「……っ、」
「動くと傷に障る。まだ完全に塞がってはおらん」
通りかかった女中に布団を敷く様に命じると、信長様は私をその布団の上に寝かせた。