第5章 過去の記憶
次に目覚めた時には傷が塞がったのか、私は寝巻きを着て寝ていた。
どれ位寝たのかは分からないけれど、頭はぼやっとして頭痛も少しする。
体の方はと言えば、動かせば背中の皮がつっぱる感じはあるけど動けそうで、
「……っ、」
手をついて半身を起こした。
(信長様は……?)
この寝所には信長様はいない。
「………ぃっ!」
膝をつき立ちあがろうとするけど、背中の皮のつっぱりと、体のふらつきで思い通りに立てない。
(体力がかなり落ちてる)
それでも何とか立ち上がって襖を少し開き、信長様が隣の部屋にもいないことを確認した。
(今の内に城を出よう)
もうここにいてはいけない。
とりあえずあの呉服屋さんへ行って、帰蝶が来る日まで待たせてもらおう。そして帰蝶に会ったらもう協力はできないとちゃんと伝えよう。
「……っはぁ」
少し歩いただけでも息が切れる。
階段を降りるたびに背中が痛み、膝がカクンと脆く崩れそうになる。
でも早く、信長様が戻って来ないうちに……
誰に会う事もなく自分の部屋まで戻った私は力の入らない中着替えを済ませた。
(何か必要な物は……)
部屋をぐるりと見渡すけれど、私の物と呼べるものは何一つない事に気付く。
ここにあるのは、あの本能寺の夜、身一つで連れてこられた私に信長様が用意してくださった物ばかり……
初めてこの部屋に通された時には何も無かったのに、いつの間にかたくさんの物で溢れてる。
(嫌われてはいなかったのかもしれない……)
帰蝶の元に帰りたいとばかり願っていたから、そんな事すら思ったことはなかったけど……、情婦の様な扱いでありながらもそれなりに大切にされていたのだろうか……?
「……そんなわけないよね」
囲った女の人はきっと皆こういう扱いを受けるのだろう。
それに今は感傷に浸っている時間はない。
見つからない様に城を出ないと……
部屋をもう一度見回して襖に手を掛けると、自動ドアの様にその襖が勝手に開いた。