第5章 過去の記憶
「……織田の領地より追い出した。貴様の前には二度と現れん」
「そうですか……」
(命を、取らないでいてくれた)
「ありがとうございます………」
信長様はもしかしたら、優しい一面をお持ちなのかもしれない。
私がそれを見ようとしなかっただけで…
それに私には信長様に優しさを問う資格なんかない。
私は、たった一人の男(ひと)のためだけに信長様の人生を変え、歴史を変えると言う大罪を犯した。こんなにも自分勝手で酷い人間はいない。
だから優しくなんてしてくれなくていい。
「信長様…お願いがあります……」
「なんだ?」
「私を………」
この城から追い出して下さい。
そう伝えたかったけれど、信長様の胸の音が心地よく耳に届き体が温まって来た事もあって、
「私を……………………」
私は言葉を最後まで伝えきれずに眠りの中へと落ちていった。
「………眠ったか」
なるべくうつ伏せになるように胸の上に乗せ温もりを与えていた体は完全に力が抜けて全てを俺に預けていた。
(私を…の次は何を言うつもりであったのか……)
どうせ下らん、また俺を苛立たせるような事であろう。
その証拠に、
『どうか他の方の所へ…』
奴は口癖のように俺に他の女を抱けと言う。
「ふんっ、他の者などおらん」
男が女にこれ程の執着を見せる理由は一つしかない。
「……だが抱きたいのは貴様だけだと言っても、貴様は喜ばぬのだろうな」
胸や腕に触れるのは包帯の感触。
この刀傷は残る。
そして奴の心にも辛いものとなって残るだろう…
「俺が目の前にいながら貴様の背中に残る傷をつけた。許せ」
頭に怪我をし、背中には残る傷…
俺といる事で貴様に害が及ぶと分かっていても、それでも俺は貴様を手放す事はできん。
「紗彩俺は貴様を決して離しはしない……」