第5章 過去の記憶
「のっ、飲みますっ!自分で飲みますっ!…っ、痛っ」
手を伸ばして椀を奪おうとした途端に背中に激痛が走った。
「紗彩っ!」
痛みで体を窄めた私を信長様の手が支えて抱き寄せた。
椀はまだ信長様の手の中…
「飲ませてやる口を開けろ」
「 っ、ですから自分で…」
「口移しではない。貴様が飲めるように体を支えてやる」
体を楽な体制に傾けてくれ椀が私の口に当てられた。
「あ、ありがとうございます」
キスをされたらと焦りすぎた自分が恥ずかしい…
信長様が優しいことに慣れていないから、どうにも調子が狂ってしまう。
苦い薬を飲んでいるはずなのに、なぜか胸には甘い感覚が広がっていく。
「……ちゃんと飲んだようだな」
私から椀を取った信長様は中身が空になったことを確認して床へと置いた。
「包帯を変えてやる、少し辛いがそのまま動くな」
私の包帯を解き出した信長様だけど、私は自分が包帯以外何も身に付けていないことを思い出した。
「っ、あの…せめて襦袢を着たいのですが…」
「背中の傷がまだ完全に塞がってはおらんゆえ着物を着るほど手を動かせぬ。しばらくは我慢しろ」
「で、でも…」
「案ずるな。回復するまでは俺が世話してやる。誰に見られる事もない」
スルスルと、巻かれていた包帯が取られた。
誰にもって…信長様は見るんじゃ… 、
本当は信長様にだって見られたくない。私の背中の火傷の痕と、虐待の痕はできれば誰にも晒したくはないのに……
辛い思い出が蘇り体が震え出すけれど、
「なぜ飛び出した……?」
それに構うことなく信長様は疑問を口にした。
「え?」
「なぜあの時、俺の前に飛び出して斬られた?」
「それは、……別に斬られたかったわけではありません。ただ、私のせいで誰かが傷つくのをもう見たくなかっただけです」
本当にもう誰かの命が消えてしまうのは嫌だったんだ……