第5章 過去の記憶
「……………」
目覚めれば信長様の部屋………
(私…生きてる……?)
うつ伏せに寝かされている事に違和感を感じて寝返りを打とうとするけど、
「いっ、…た」
背中に鋭い痛みを感じて動かせない。
(そうだ、私…背中を斬られたんだ…)
斬られた箇所がズキズキと痛み、脈打っているのが分かる。
自分の肩が横目に映る。着物は着ていないらしく素肌に包帯を巻かれそのままの姿だ…
(でも、寒気が…)
ぶるッと震えがきた時、ふわりと肩に羽織りが掛けられた。
「寒いのか?」
(信長様の声だ……)
「……いえ、大丈夫です」
うつ伏せ状態で顔を動かせなくて良かった。
あんな事があった今は顔を合わせたくない。
「……熱が出て来たな」
私の意思に反して、信長様は私の額に手を添え熱を計る。
「熱冷ましだ、今のうちに飲め」
私に見えるように、信長様は薬の入った椀を置いた。
「いりません」
もう…放っておいてほしい。助かりたくなんてなかったのに……
どうして私は…いつも生き残ってしまうんだろう…?
生きて何をしろと言うんだろう?
生きていても辛いことだらけなのに……
「飲まねば治らぬ、飲め!」
「治りたくなんてありません……私の事はもう放っておいて下さい……」
生きているだけで誰かを傷つけ自分も傷つくだけの人生ならば、もう生きていたくない……!
「貴様の意思など聞いておらん」
信長様は不機嫌な声を出すと、私の体をゆっくりと回転させ起こした。
「……いっ…っ!」
わずかな動きでも背中には激痛が走る。
「刀で斬られたのだ、痛むに決まっておる。今後はもっと熱が上がる。飲みたくないと言うのならば口移しで飲ませるまでだ……」
「それは………っ!」
嫌だと言おうと信長様を見ると、いつもとは違う視線に絡め取られて言葉に詰まった。
(信じられないけど…心配してくれてる……?)
いつもは威圧的で自信に満ちた目が、今は熱を持ち不安定に揺れているように見える。
「答えがないのは肯定と捉える」
信長様は床にある薬の椀を手に取った。