第4章 嫉妬と仇討ち
「貴様のために斬ったのではない。あの女は朝廷からの品である羽織と貴様、俺のものを二つも傷つけた。この罪は死を持って償う他ない」
「命より大切な物など存在しませんっ!しかも彼女は針子頭として重要な存在で、代わりのきく私とは違いますっ!」
「貴様……」
信長様の眉間に皺が刻まれ、腕が私に伸びて来た。
「………っ」
胸ぐらを掴まれ凄みを効かせた顔が迫る。
「貴様は、二言目には代わりがきくと言うが、貴様の代わりなどどこを探してもおらぬっ!」
「え……?」
低く唸るような声……
予想外の言葉に思考は停止し呆けた声が出た。
「どう言う……」
言葉の意味を聞こうとした時、
「織田信長ぁっ!」
悲痛な叫び声が背後から聞こえた。
信長様を呼び捨てする人などこの安土にはいないはず、なのに…
振り返れば一人の侍が信長様を睨みながら刀を構えている。
「御館様、お下がりをっ!」
秀吉さんを含む周りの家臣たちが刀を抜いてその男を取り囲んだ。
「待て、手を出すな」
信長様はそれを手で制する。
自分に刀が向けられていると言うのに、信長様は全く顔色を変えない。
「貴様は誰だ?なぜ俺の命を狙う」
「娘の仇だ。この城で針子をしていた」
(あ……っ!)
あの針子頭のお父さんっ!?
「娘は真面目に働いていたにも関わらず、そこにいる情婦の卑劣な罠にハマって斬られたと聞いた!」
私と信長様に向けられる男性の目には、強い恨みの念が見える。
私の…せいだ………
「貴様の娘は朝廷からの品を池に投げ捨てようとした挙句、俺の女を池に突き飛ばし怪我を負わせた。死をもって償うは当たり前」
顔色を変えず、信長様は淡々と話す。
「だ、黙れっ!そんな嘘には騙されんっ!娘はいつも言っていた、その情婦が来てから仕事が捗らず城の風紀が乱れ困っていると…」
私が来てから…
その通りだ。私がここに来なければ彼女は死なずにすんだし、この家族がこんなにも苦しむこともなかった。