第4章 嫉妬と仇討ち
(秀吉さんに届けに行くのかな?)
そう思ったけど……でもおかしい。
普通偉い人に仕上がった物を見せたり渡す時は、たとう紙に包むか桐箱に収めるのに、どうしてあんな無造作な持ち方…
それに信長様が視察に出てるって事は、秀吉さんも一緒なはずでまだ城には戻って来ていないはず…
(まさか…)
嫌な予感がして、私は彼女の後を追いかけた。
思った通り、針子頭は秀吉さんの部屋を素通りして廊下を早足で歩いて行く。
池のある中庭の廊下まで来ると、彼女はキョロキョロと辺りを見回し、そして草鞋を履いて池の方へと向かった。
(この間、別の着物を投げられた時と同じ池だ!)
「ま、待ってくださいっ!」
池に投げ捨てる気なのだと分かり、私は裸足のまま廊下から庭へと飛び降りた。
「紗彩様っ!」
「その羽織を…池に投げる気ですか?」
「……っ」
答えるよりも先に針子頭は着物を振り上げた。
「だめーーーっ!」
彼女の手を先に掴んで動きを止め、次に羽織を握った。
「何をっ!」
女中頭は羽織を引っ張り私の手を引き剥がそうとする。
「お願いします。池に投げないで下さいっ!この羽織は大切なんです。これを投げられたら私は…」
帰蝶に会う手段を失ってしまう。
「離しなさいっ!」
「やめて、お願い、これを返して下さいっ!」
「あなたみたいな女が信長様の近くで、しかもこんな羽織を…本来ならば私の仕事のはずなのに、どうしてあなたばかりが…」
針子頭は悔しそうに私を睨みつける。
「っ、ごめんなさい。私に非があるのなら謝ります。でもその着物は本当に大切な物で…」
嫉妬と恨みの目…
(この目は…私のせい……?)
ふとそんな気に駆られた時…
「そんなに返して欲しいのなら返してあげるわ」
女中頭はそう言って、着物を掴む手をパッと離した。
「え?」
返してほしくて必死で引っ張っていた着物の力が急に緩み、
「………ぁ!」
私の体はそのまま勢いよく後ろへと下がって池へと落ちた。
ガンっ!
「っ!」
何かにぶつかったのか、頭に鋭い痛みと衝撃が走り……
「紗彩っ!」
なぜか信長様の声が聞こえたような気がして、私の意識はそこで途切れた………