第4章 嫉妬と仇討ち
「それは…困ります。針仕事を取り上げられたら、日々の過ごし方が分かりません」
帰蝶に会える日はもうすぐそこなのに、今針仕事から外されたら城下に行く機会を失ってしまう……!
「お前は信長様の側にいて差し上げろ。それだけでも身に余る光栄な筈だ」
「そんな…」
「この針仕事は信長様の許可があればこそできているものを…苦情が出るほどの働きとは信長様に迷惑をかけている事が分からないのか?」
もう既に私に非があると思っている秀吉さんに、何を言えるって言うの?
「お前の気持ちが信長様にない事は皆分かってる。だが信長様はそれでもお前を側にと、記憶のないお前に何不自由ない城での生活をさせて下さってる。少しはそのお気持ちに応えたらどうだ?」
「………っ」
やだ…涙が出そう。
こんな事で泣きたくないし、泣いたら泣けばいいと思ってるのかって言われそうだ。
「……っ、お願いします。もうこんな事がないように気をつけますから。今回は許してください。お願いします」
涙が流れないように下を向いて、唇を噛み締めた。
何を言われても、どんな罰を受けようと構わない。
けど、帰蝶と会える唯一の時間を失うのだけは嫌だ。
「そんなにも針仕事がしたいなら、まずはこれを仕立ててみろ」
秀吉さんはそう言うと、私の前に漆の箱に入れられた反物を置いた。
「これは?」
手に取らなくても入れてある豪華な漆の箱と金糸の織り込んだ反物が、豪華な物だと告げている。
「信長様が朝廷より賜った反物だ。信長様はこれで羽織を作れと仰せだ。お前が信長様の為に仕立てて差し上げろ」
「私が……?」
「そうだ」
「でも私…まだ羽織を縫ったことがなくて…」
普通の着物とは違い細部の縫製が分からない。
「分からない事は針子達に教えてもらえ。お前が信長様の為に仕立てたと知れば信長様も喜ばれる」
「…………」
今の関係性で教えてもらえるとは思えないけど、朝廷からの大切な布だと伝えれば教えてもらえるかも知れない。
何より、針仕事を取り上げられて帰蝶と会えなくなるなんて耐えられない!