第4章 嫉妬と仇討ち
信長様からの寵愛が深まるほど、それを妬む女中達や針子達からの嫌がらせは日々激化していった。
「紗彩ちょっと話せるか?」
「秀吉さん…?」
城下町に仕立てた物を納めて帰ってきた所で、秀吉さんに声をかけられた。
(なんだろう……?)
秀吉さんはこの城に来た当初から私の事を誰よりも疑っていて、その時から私を厳しい目で監視している。
最近はそれがだいぶん和らいでは来たけど、私の存在を疑っている秀吉さんに呼び止められるのは正直怖い。しかも今日はいつもより顔が険しい。
ここにいる理由が理由なだけに、こう言う時は身バレしてしまったのではないかと、手にじんわりと汗が滲んだ。
黙って頷くと、近くの空いている部屋へと通された。
「城下から戻ったばかりなのに悪いな」
「いえ、あの…お話って…」
どくどくと心臓が嫌な音で鳴っていて、顔に出さないようにするだけで精一杯だ。
「その、なんだ、針子の仕事の事なんだが…」
(ああ…そっちか…)
帰蝶の事ではないと分かり、体の緊張は一気に解けた。
「はい…」
「針子頭から、お前の仕事に対しての苦情が来てるんだが…」
「申し訳ありません。以後気をつけます」
苦情の内容を聞かなくても分かるから、謝って頭を下げた。
「……まだ何も言っていないが、苦情の内容に心当たりがあると言うことか?」
秀吉さんの険しい顔がもっと厳しくなった。
「はい。すみませんでした」
解決出来ない話を広げたって無駄だもの。
頭を下げていればその内この話も終わる。
「紗彩、お前はそれでいいのか?お前にも言い分はあるだろう…?」
「……何もありません。これからは気をつけますので…本当にすみませんでした」
「紗彩お前なぁ、信長様の寵愛が深いからと言ってあまりいい気になるなよ!それにお前を特別扱いするわけには行かない。お前の態度がそのままなら暫くは針子仕事から離れてもらう」
「え………?」
話は終わるどころか、思いがけない方向へ進み出した。