第3章 記憶喪失の女
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「…………」
目を覚ませば信長様の腕の中。
昨日帰蝶に会ったからか、久しぶりに本能寺の時の夢を見た。
帰蝶は本当に残酷な男だ…
体は差し出せと言うのに唇は守れなんて…
何でもするなんて言わなければ良かった。
でも、”何でも”の中に、帰蝶以外の人に体を許すと言う事が含まれてるなんて思ってなかったから…
何でもするとは、私の中では新天地に行っても迷惑をかけずに頑張るって意味だったのにな……
私はバカだけどバカじゃない。
帰蝶にとって私はその程度の相手だったと言う事もちゃんと理解している。
ただ、私がしがみついているだけ。
それだけなんだ……
「……起きたのか?」
腕の中でモゾモゾしていたから、信長様を起こしてしまったらしい。
「…はい。おはようございます」
「ふっ、今朝は起きられる体力が残っておったようだな」
冗談を言っているつもりだろうか?それとも嫌味だろうか?
信長様はそう言うと私の髪に唇を押し当て、腕を背中に回して私の背中を撫で始める。
「今朝はたまたまです。私では信長様にご満足頂ける夜伽はできません。ですから今後はどうか他の方をお召し下さい」
信長様は武将として逞しいだけではなく夜も逞しく猛々しい。連日連夜の相手は全てを吸い付くされたように疲弊し、一日中気怠さがつきまとう。
「ほう貴様、まだ俺に意見するか……?」
背中をさすっていた指がピタッと止んだ。
空気が凍りつく瞬間…
「っ、意見ではありません。私では役不足で信長様を癒して差し上げられないのではと思いまして……」
私もよくよく学習しない。
こんな事を言えばまた機嫌が悪くなってひどく抱かれる事になるだけなのに…、そしてそれは朝でも夜でも関係ない。
途端に恐ろしくなって信長様の胸に添えていた手が震え出した。
( っ、ダメ、怖がっていると分かると更に酷くされる)
震える手に気づかれる前に隠そうとした時、その手を掴まれた。