第3章 記憶喪失の女
「………?」
私の首は再度傾いた。
「織田信長をこの本能寺ではまだ死なせない。その役目をお前にしてもらいたい」
「………えっ?」
何て答えればいいのか分からなかった。
死ぬと分かっている人を助ける事は正しい気もするし、でもそれは歴史を変えることになる訳で…
「歴史を…変えるつもりなの……?」
「そう言っている」
「っどうして……?」
私は、帰蝶のことを本当に何も知らない。
帰蝶が何をしようとしているのかをこの時初めて聞いた気がする。
「あの男を絶望の淵へと突き落とすためだ」
帰蝶の綺麗な目が冷たく光った。
「あの男って?」
「織田信長だ」
彼は、こんな冷たい目をする人だったっけ?
「助けようとしている人を絶望させるの?」
これが本来の帰蝶…?
「そうだ。あの男にはもう少し生きてもらい天下布武の道へと邁進してもらう。そしてそれが叶いそうになる直前で転覆させ天下統一を阻む」
「何のためにそんなこと…」
「言っただろう、歴史を変えるためだ」
「それが…帰蝶の計画なの?帰蝶は、歴史を変えたいの?」
「そうだ。そしてそのためにはお前の協力が不可欠だ」
(不可欠……?じゃあ私は最初から帰蝶の計画に入ってたってこと……?)
その言葉に疑問を覚えたと同時に妙に納得もいった。
だって帰蝶は言ってたじゃない。一緒に来ても辛い事しかないって……
だからこそ彼は私に選択させた。
一人で生きていけと言ってお金を渡そうとすれば、私がついて行きたいって言う事を分かっていたから……
(私を拾ってくれたのは、この計画のためだったの?)
本当はこう聞きたかったけど、その言葉を飲み込んだ。
「……分かった。どうすればいいかを教えて?」
聞いてしまえば思っていた通りの答えが返ってくる気がして怖くて、聞く事はできなかった。