第12章 愛しき者の正体
「戦乱の世を好んで生きて来たようなお前に天下泰平の世など築けぬ!その軌道修正は、お前が死んでのみ初めて実現する。だが、あいつはそれを拒み己自身が滅びる事を選んだ。やはり、優しく愚かな女だ……」
帰蝶は俺を睨み唸るように声を吐く。
帰蝶の言うように、本来死ぬはずであった俺が死ねば軌道修正は簡単であろう。
だが、問題はそこではない。
「貴様、もしやその選択を紗彩に迫ったのか」
俺を助け歴史を変えた事を、紗彩は恐らく罪だと捉えたのだろう。そしてその事に怯えながらも俺と帰蝶との板挟みにあい、最後には命の危機だと知らされ、俺か己かの命、どちらかを選べと言われた……!
「帰蝶、貴様には紗彩を愛する資格などない」
「なに?」
「紗彩の親族が奴の体に傷を付けたように、帰蝶、貴様は紗彩の心に深い傷を負わせた!」
「お前に何が分かるっ!」
「貴様の事など分からん。だが紗彩を苦しめたその罪、貴様の命で償え」
ドンッ!ドンッ!
ほぼ同時に引き抜き撃ち放ったピストルは、両者の頬を掠めた。
「相変わらず気の短い男だ」
「うるさい、死ね」
ドンッ!
もう一発帰蝶へとピストルを撃ち放ったが、奴は外套を軽やかに翻して部屋の外へと飛び出した。
「ここでお前とやり合うつもりはない。そんなにも死にたければ京に俺を追って来い!場所は、お前が死ぬはずだった本能寺。そこで今度こそその生を終え愛しい女を守るんだな」
ドンッ!
帰蝶は俺の足元へピストルを撃ち込み俺の動きを止めると、そのまま姿を消した。
「逃げたか……」
用意周到な所は昔から変わっておらん。
だが収穫はあった。
紗彩を苦しめているものが病では無いと分かっただけで良い。
追いかけても無駄だと分かっている俺は、帰蝶を追うことはせず城へと戻った。