第12章 愛しき者の正体
「そこから三年、俺は未来の世界で生きて来た」
そして帰蝶は、親族から虐待を受けボロボロになった紗彩と出会いここへ連れて来たのだと言った。
「だてにお前に仕えていたわけではないからな。紗彩を見た時に、お前は一目で気にいると思った。…ふっ、まあ予想以上にのめり込んだようだがな」
帰蝶の挑発はなおも続くが…、
「俺が紗彩を手に入れる事と奴の命に何の因果があると言うのだ?」
今はただ、紗彩を助ける手立てを引き出したい。
「簡単な事だ。あの日、あの本能寺でお前は本当は死ぬはずだった。だがそれを紗彩が助け歴史を変えた。それにより訪れるはずであった天下太平の時期が遠のき歴史に狂いが生じ、本来作られていくはずの未来が消えたと言う訳だ」
「……….」
初めて紗彩に会った日が脳裏に蘇る。
「紗彩は、この事を知っておるのか」
「歴史を変えたと言う事実は知っている。お前が死ぬはずだったあの本能寺の変は、五百年後の世で知らぬ者はいないからな」
「そうか……」
(ずっと何かに怯えていると思っては来たが、原因は歴史を変えてしまった事への良心の呵責であったか)
未来を知らぬ俺に分かるはずもない事であるとはいえ、気づいてやれなかった事に己の不甲斐なさを感じると共に、ある事に気がついた。
「待て、未来が消えると言う事は、未来の者である紗彩も消える…と言うことか」
(そしてそれが原因で奴の体調に異変が……!?)
「ああ、そうだ。紗彩自身、それを知ったのは最近だがな……」
「!」
その最近とは、あの日、ここに一人で来て倒れた日の事に違いなく、紗彩が一人、どれほどの思いでその闇を抱えていたのかと、胸がギリッと痛んだ。
「どんな気分だ?己の命と引き換えに惚れた女を死なす気持ちは?」
「紗彩を死なせはせん。僅かな歴史の狂いなど、軌道修正は可能だ」
天下泰平の世を作ることは俺の中では確定事項で、戦乱の世を長引かせるつもりはない。