第12章 愛しき者の正体
襖を開けて中へと入り、眠る紗彩の横へと腰を下ろした。
「俺に会わせたい者って……、その眠ってるお姫さんの事ですか?」
慶次は眠る紗彩の姿を見るや否や襖のところで立ち止まり、その場にしゃがみ込んだ。
「遠慮はいらん、中へ入れ」
「はっ!」
慶次は立ち上がると部屋へ入り、俺と向き合う形で紗彩の前に腰を下ろした。
「……このお姫さんが、信長様が本能寺から連れて来たって言う姫さんですか?」
「そうだ。名は紗彩と言う。会うのは初めてだな」
「はい。……あの、このお姫さんは病気かなんかで?」
慶次は言い辛そうに質問を口にした。
「分からん。が、もう五日、この様に眠ったまま目を覚まさぬ」
「五日も!?医師はなんて?」
「医師にも分からなければ、あらゆる書物や原因を探っても皆目見当がつかん」
「そうですか…」
慶次は不思議なものを見る様に、眠る紗彩の顔を覗き込んだ。
「この眠り姫が信長様の寵姫………………ん?」
紗彩の顔をはっきりと見た慶次は俺が予想した通りの反応を見せた。
「慶次、貴様が商館で見た女はこの女で間違いないな?」
そして俺は、用意していた言葉を口にした。
「あー、いや、目を瞑ってるんで何とも…」
慶次は言葉を濁らせる。
「俺の女だからと言って遠慮はいらん。思ったままを言え」
「っ……」
慶次は目を瞑って息を吸い込み、
「信長様の仰る通りで……、このお姫さん、俺が堺の商館で見た女と瓜二つです」
言いづらそうに言葉を吐いた。
「……そうか。瓜二つか……」
俺の目も自然と閉じて、心を落ち着かせる。
これ程の女が二人もいるはずがない。
間違いない。紗彩は、帰蝶の寄こした間者だ。
「ふっ、これまでありとあらゆる可能性を考え探って来たが、まさかこの様な展開になるとは考えておらなんだ」
眠る姿さえ美しい紗彩の滑らかな頬を撫でるが、奴の目は依然固く閉じたまま。
「慶次、この事はまだ誰にも言うな」
「分かりました。……が、どうするつもりで?」
「帰蝶に直接会って確かめねばならん事がある」
「ですが奴の行方は——」
「帰蝶はこの安土にいる」
「安土に!?」
俺には分かる。
「出かける。馬を引けっ!」