第12章 愛しき者の正体
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「信長様、前田慶次、戻って参りました。早々のお目通りが叶い恐悦至極に——」
「前置きは良い、頭を上げよ」
(相変わらず騒がしい男だ)
「ははっ!」
「先の天主砲撃の際は貴様の報告が役に立った。礼を言う」
「いやぁ、織田軍の為、当たり前の事をしたまでのこと!」
「して、堺はその後どうだ」
「商館の方はあの日以来ずっと織田軍で占拠したまま変わりはありません。ただ帰蝶の行方が未だ知れません。京なのか堺なのか…毛利と共に先の将軍を匿って反撃の時を狙っているとは思うんですが…」
「そうか…」
(あの厄介な男を匿える場所などそうそうありはしない。近いうちに動き出すのは目に見えておるな)
「堺の兵の準備はどうだ」
「はっ、これも抜かりなく。いつでも信長様のお声ひとつで如何様にも動かせます」
「上々だ。報告は以上か」
「はっ、………あ、いや、まぁこれはあまり関係のない話かも知れねぇんですが……」
「なんだ」
「俺の睨んだ所、どうもあの帰蝶に女がいるみてぇで…」
「女?」
(あの男に?)
「俺も初めは、毛利の縁者かどっかの姫さんを掻っ攫って来たんだと思ったんですが、本当に帰蝶か?って位、その女といる時の奴の顔が優しくて…なんて言うか、まぁ俺たちには決して見せたことのない顔をしてたんで間違いねぇです」
「ほぉ……」
(優しい…、頬を緩めたことなどなさそうなあの男からは想像もつかんな)
「ふっ、人のことを言えた義理ではないな」
「え?」
「いや何でもない。してその女は今どこにいる」
(あの日の襲撃で、女連れで逃げられるとも思えんが…)
「それがよく分かんねぇんです」
「どう言う意味だ?」
「帰蝶が大切に匿ってたんでしょうが、急に商館から姿を消したりまた戻って来たり…と、なにぶん神出鬼没な女でして…」
「間者ではないのか?」
(間者の女とならば、作戦上そのような関係に見せることも少なくはない)
「いや、俺もそれなりに間者の女を見て来ましたが、あんな儚げで華奢な女が間者な訳ありません」
「………」
儚げで華奢と言う言葉に、一瞬紗彩の姿が思い浮かんだ。