第11章 別れの準備
「私が信長様ならどうかな」
自分に置き換えて、信長様の気持ちを考えてみる。
帰蝶の色々な面を知って、私は帰蝶を嫌いになった?
ううん、嫌いになんてなれない。
彼への気持ちは、家族に対する情のようなものへと変わったけど、感謝の気持ちは出会った頃と何も変わらない。
もし信長様もそうだったら?
「っ……、ごめんなさい」
手紙を丸め再びろうそくの火で燃やした。
傷つけたい訳じゃない。
私が望むのは、信長様がこの先の人生を幸せに生きてくれる事。
これは、その為の手紙だ。
「素直な気持ちを書こう」
ずっと信長様には嘘をついてきた。だから最後のこれは、本当の私の気持ちを書こう。
私は、信長様の事が好き。
そして、こんな気持ちに私をさせてくれた信長様には誰よりも幸せになってもらいたい。
私は、信長様に愛されてとても幸せだったから。だから、私がいなくなってもどうか悲しまずに幸せな人生を生きてほしい。
あの綺麗な紅い瞳が、これからもずっと幸せ色で輝き続けますように。
「………書けた」
上手な言い回しなんて出来ないし、この手紙でうまく気持ちを伝えられるのかも分からないけど、
「どうか、伝わりますように」
この手紙を読む時にはもう私はいない。だから、うまく伝わったかを確認する事ができない。
「花、お願いがあるの」
「はい。何でしょう?」
「この手紙を花に預かってもらいたいの」
書き終えたばかりの手紙を折り畳んで、花の前に出して見せた。
「はい。分かりました。ですが、いつまででしょうか?」
手紙を手に取り、花は不思議そうに私に尋ねた。
「私にもしものことがあったら、これを信長様に渡して欲しいの」
「え?」
花の顔が陰る。
「もしもの話よ。わたしの気持ちの問題というか、花に持っていて欲しいの」
この戦国の世に来て、初めて私の友達になってくれた花だから、安心して託すことができる。
「……分かりました。大切にお預かりします」
聞きたいことがあるだろうに、その気持ちを抑えて、花はその手紙を預かってくれた。
「ありがとう」
これで大丈夫。
明日私の命が消えたとしても、私の気持ちは信長様に渡してもらえる。
私の最後の願い、信長様にどうか正しく伝わりますように。