第11章 別れの準備
それからいく日かが平穏に過ぎていき、私は一つの決心を固めた。
「花、紙と筆を用意してくれる?」
「はい」
この命がいつ消えるのかは分からない。
私が死んでしまっても信長様が悲しまなくて済む方法は一つだけ。
それは、私の秘密を打ち明けて嫌いになってもらう事。
「紗彩様、用意できました」
「ありがとう」
でも、生きているうちに打ち明けることができるほど私は強くないから…
だからこの手紙に全てを綴ることにした。
私がいつどこで生まれて、どのように生きて、そしてどうしてこの時代に来たのか。
生まれて初めて愛した人の事。その人の側にいたくて信長様の運命を変えてしまった事。
信長様と過ごすようになってからも、その人と会っていた事。その人の元へいずれは戻りたいと思っていた事。
だけど、気がつけば、信長様のことが気になっていた事……
「……ぁ、信長様への気持ちは綴ってはだめだ」
紙をくしゃくしゃっと丸めて目の前のろうそくの日で燃やした。
本当の事を書くのは、信長様への気持ちが変わる前まで。それでなければいけない。
「でも…感謝の気持ちだけは伝えたいな……」
信長様からは恐怖も沢山味わったけど、それ以上に心を何度も温めてもらった。
本当に愛されると言うことがどう言うことなのかも……
でも、それを伝えるには、私の今の信長様への気持ちを綴らなければいけないわけで、それはこの手紙を書く目的に反してしまうからできない。
でも、もしこの手紙を読んでも嫌いにならなかったら?
帰蝶の思惑通りに、私の裏切りを知って怒り狂い世の中を混沌としたものにしてしまったら?
この手紙の存在が、信長様の人生を再び狂わせてしまうことにならないだろうか………?
何より、
「信長様を傷つけてしまうことにならないかな……?」
母上様の事で傷ついている信長様を知っているだけに、それは絶対に避けなければならない。