第10章 真っ白なページ
「帰蝶、愛ってね、無償のものだって、私やっと分かったの」
与えれば与えてもらえると思う自己満足の愛は愛じゃない。
好きだから喜ばせたい。
好きだからその人の幸せを願いたい。
信長様はそんな愛し方を私に教えてくれた。
「この命がもうすぐ消えるのなら、信長様の元で消える。私を愛してくれたあの人を、私もこの命が消えるその日まで愛しながら消えたい」
私を抱きしめる帰蝶の腕を解いて、私は部屋を出るために立ち上がった。
「帰蝶にはたくさん感謝してる。あの日私を救ってくれて、色々なことを教えてくれてありがとう」
優しくて残酷で、最後は悲しみの方が増えてしまったけど、帰蝶に出会って恋をした事を後悔した事はない。
「帰蝶、さようなら」
もう迷いはない。
私は帰蝶に背を向けて部屋の外へ向かって歩き出した。
「………っ、待て!」
帰蝶が私の腕を掴んだ。
「……っ、帰蝶……?」
「お前は、お前の命は織田信長を殺せば助かると知っても、お前はあの男の側にいられるのか?」
「………………え?」
苦し紛れの嘘?
でも、振り返り見る彼の顔は嘘をついているようには見えない。
「何を驚く、簡単だ。信長の命を長らえさせた事により未来が変わったのなら、信長を殺して元の歴史に戻せば良いだけのこと」
「なに…言ってるの?そんな事できるわけないし、何よりもう歴史は変わってしまってなかった事に出来るわけないじゃないっ!」
(人の命を、一体何だと思ってるの!?)
「本能寺の変からまだ一年も経ってはいない。お前の生まれた五百年後までの時の流れを思えば大した時間ではない。歴史はまだ元に戻せるはずだ」
帰蝶は真面目に言っているのだと、私の手首を掴む力強さで分かる。