第2章 出会い
「苦労するだけだ。昔のお前に戻りたくはないだろう?それに今の時代の様に便利な世の中ではない」
(私のため……?)
あの時の私はそう思った。
「苦労なんてっ、帰蝶と一緒なら耐えられるよ!帰蝶と離れる方が私には辛いの」
「紗彩……」
「お願い、私も連れてって」
「行けばお前には辛い事しか起こらない」
「帰蝶と離れるより辛いことなんてないよ。お願い。何でもするし頑張るから」
縋り付く私に帰蝶はしばらく考えた後……
「……それがお前の意志だと言うなら、俺と共に来るか?」
私の望んでいた質問をしてくれた。
「っ、良いの?」
「ああ、だが来るからにはそれ相応の覚悟を決めてもらう」
「覚悟……?」
「俺にはあの時代に戻ってやらねばならんことがある。お前にはその為に俺の役に立ってもらうが、それがどれほど辛いことであっても、耐えられるか?」
「耐えられるよ。それに、帰蝶の役に立てることが私にあるなら何でもする」
「紗彩、俺がお前に手伝わせようとしている事は、お前には辛い事でしかない。俺を恨みたくなる様な事だ、それでもお前は、本当に俺と来ることを選べるか?」
萌黄色の瞳が、私の心の中を透視する様に真っ直ぐに見つめる。
ここで怯んだら、彼はきっと私を置いて行ってしまう。
私の人生はある日を境に永遠に続く様な試練の中へと落とされた。その中で帰蝶は私を助けてくれ、喜びと幸せを教えてくれた。だからそんな人と共に生きられる人生がどんなに辛くてもきっと耐えられる。
「帰蝶を恨む日なんて来ないよ。私の人生は帰蝶によって救われたの。だから次は私が恩返しをする番。帰蝶のためなら何でもするよ……?」
「俺のためなら、命も捨てると言うのか?愚かだな」
「愚かで構わない。お願い、私を置いて行かないで」
帰蝶は、命を粗末にする者、人に左右される者が好きじゃない。だから私のこの言葉はきっと帰蝶を呆れさせてる。
けど、これ以外にあなたにしがみつく方法を私は知らない。あなたを失う事なんて考えられない。
例えあなたがどれほど酷い仕打ちを私にしたとしても構わない。私は、あなたを愛してる。
「今日は、お前の好きなものを食べ尽くすか。もう食べられなくなるからな」
帰蝶は綺麗な顔をやっと笑顔にして、私を抱きしめてくれた。