第2章 出会い
未来の日本で帰蝶と過ごした日々は幸せだったけど、長くは続かなかった。
ある日、帰蝶はリビングテーブルの上に見たこともない量の札束を置いて私にこう言った。
「これを持って、好きな所へ行け」
話があると普通に言われて来てみれば、普通ではない状況と言葉に叔母夫婦の家を追い出された時の記憶が蘇った。
「私…、帰蝶を怒らせるようなことをした……?」
「お前には何の咎も罪ない。俺がここにいられなくなった。それだけの事だ」
「どう言う意味?帰蝶…どこかへ行っちゃうの……?」
「明日、故郷へ戻る」
「故郷…?実家ってこと……?」
知らなかった…。何もかもが洗練された帰蝶は、てっきりこの都会の生まれだと思っていたから…
「実家と呼べるものはもうない。だが、俺のいた時代へ戻る」
「時代……?」
「戦国時代だ」
「?」
急に別れを告げられて頭が混乱してしまったのか、帰蝶の言葉の意味が理解できなかった。
「戦国時代……?」
「そうだ」
「?」
ますます混乱した。帰蝶は、そんな訳のわからない冗談を急に言う人じゃない。
それに、彼の顔は至って真剣で……
「帰蝶は、過去から来た人なの……?」
こんな質問、する方がどうかしてる。と思いつつも、戦国時代から来たと言う言葉があながち嘘じゃないんじゃないかと、日頃の帰蝶を見ていて思えたからだ。
現代人離れした美しさや所作、寡黙さ、憂いを帯びた瞳……。帰蝶を見るたびに、この世の人ではないような気がいつもしていた。
「ふっ、理解が早くて助かる」
帰蝶はそう言って目を細めると私の手を取り、帰蝶がどうしてこの時代に来て、そしてどうやって帰って行くのかを説明してくれた。
「……このマンションはもう引き払う。お前はこの金を持ってお前の人生を好きに生きろ」
説明を終えた帰蝶は机の上に置かれた札束をポンと叩いて私との別れを告げた。
一生を過ごせそうなほどのお札の山…
でも、
「……っ、私は、一緒に連れてってくれないの?」
欲しいのはお金じゃない。